満足度★★★★
イギリスお得意の怪談話の2013年初演の最新作。日本初演。イギリスの荒涼の僻地を舞台となれば「嵐が丘」のような古典から怪談でも「ウーマン・インブラック」のような名作もある。この舞台の設定は1937年。戦前の話である。
道具立てはおなじみのイギリスの地方の豪邸。傾きかけた炭鉱主一家にまつわる怪談で、ジャンル分けをすれば亡霊の憑依ものと言ったところか。炭鉱主夫妻(益岡徹・木村多江)の一粒種の男の子が、沼地の廃坑に転落して助けだせなかった。それから10年。この家には怪しげな霊が出没する。そこへ、当時隣人であったエイブリ―一家(相島一之・峯村リエ)が、事故死した子と仲良く遊んでいた男の子テレンス(岡田将生)を伴って訪れてくる。彼は成人している。時代の不安や過去の不幸で沈みがちな辺地の豪邸の持ち主と、そこに滞在する一家を背景に、テレンスに過去の男の子の霊が憑依する。「ブラッケンムーア!」と、廃坑から呼ぶ男の子の霊の声が・・・。そこまでが、一幕1時間10分。その解決の二幕が60分。休憩20分を挟んで2時間半。三日目の1010は中年女性客中心に満席。
エッツ?これで新作?と聞き返しそうになる怪談話だが、さすがに細かく時代に合わせた工夫はある。怪談そのものの実在を問う心理学と医学の葛藤。その裏側にある科学技術の生活への浸透。それが炭鉱のようなエネルギー産業を揺るがしている(幕開きと幕切れは、炭鉱主と労働者の人員整理交渉である)。子供を亡くした家族と、そこから逃れられた家族の10年の歳月は家族の意味や、子供の成長の時間を考えさせられる。同時にそれは隣人と言う人間関係も、その中で生きていく人間の悲しみも変えていく。ドラマはそういう細部を取り込んでいるが、そうなると、現代と設定した1930年代末ごろ、とのギャップが出てくる。
怪談へ総てを集約するには随分盛り沢山な内容で、すっきりまとまりきれていない。よく聞いていると、原文にはいろいろ怪談的、サスペンス的引張の台詞があるようだが、まだ開いたばかりで、舞台の空気が、まとまっていない。観客を怖がらせるところまで、演出も詰め切っていないし、俳優にも余裕がない。まだ開いたばかりだが、そういうところはこれだけ達者な連中が集まっているのだから改善されるだろうが。