神の子どもたちはみな踊る after the quake 公演情報 ホリプロ「神の子どもたちはみな踊る after the quake」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    、当たったベストセラーを舞台にするのは、集客には有利に見えるが、実現し成功するのはそれほど単純ではい。まず、もともと【文芸】の小説をそのまま読者に届けたいという至極まっとうな作家も少なからずいる。村上春樹もその一人で、他のメディアとのかかわりには敏感に気づかいをする。
    初刷りが50万と言われるほど売れているのに、村上春樹作品の映画化、テレビ化、コミック化、もちろん劇化も極めて少ない。2012年に初めて日本国内で舞台化された「海辺のカフカ」のときは、演出者・蜷川幸雄の何が何でも芝居として面白いと言わせてみせる!という、作家への対抗心のようなものも見えて、なかなか面白い興業だった。「海辺のカフカ」はスターも並べた大劇場の公演で、五年以上も再演を重ね、ロンドン・パリを含む海外公演もある大興行になり、その間に蜷川幸雄を世を去ってしまった。こちらは、テキストの趣向も一味違う村上春樹の中劇場(と言うより小劇場向き)作品だ。製作は同じホリプロ。同名短篇小説集からのコラージュで、演出は倉持功。俳優は児童も入れて5人。それぞれ複数の役を演じるが登場人物は多くない。1時間40分。
    上演脚本はカフカと同じくアメリカのフランク・ギャラティ。この脚本が用意周到にできていて、ユニークな舞台作品になった。舞台ではいくつもの「物語」が同時進行するが、それぞれに、語り口(文体)の違う語り手がいて、ファンタジックな世界から、通俗的な人情物語、ギャングものからホラーまで、現代世界を飛び交っているさまざまな物語を織り上げていく。子供のために作る即興的な童話も、前世紀末の学園ロマンスも、かえるくんの寓話も、所を得て,生き生きと語られる。しかも、すべてのエピソードで、原作の多彩で複雑な現代小説の味を壊さないで、舞台に乗せている。
    脚色の技術を駆使した脚本のうまさである。「かえるくん」と「かえるさん」の呼び名の違いでシーンを面白く作ってしまうところなど、とても外国人脚本家とは思えないほどだ。
    出演者は、カフカで大受けの役を演じた木場勝己、他は若い俳優たちだ。木場はどんな役でも余裕綽々だが、ほかの三人には、複数の役を演じるのは荷が重かった。俳優が語り手も務め、さらに複数の役を演じるのもこの村上作品脚色のポイントの一つだ。役に客観性を持ちながら、肉体化もしなければならない。若い三人は、お行儀がいいところはいいのだが、肉感的表現はもっとやらないと木場には追いつけない。悪くはないのだから、これは贅沢な注文かもしれない。
    演出の倉持はこの手の作品を何度もやっている。自分で本も書いているのに思い切りの悪いところがあって、ぐずぐずテンポを落とす癖があるが、こういう切れのいい本を参考に、まもなく予定されている乱歩の第二弾では、引き締まった良い本で見せてほしい。
    猛暑の夜、あたらしいホールで、外へ出るとここ二十年ですっかり変わってしまった東京駅前丸の内。あれ、おれはどこにいるんだろうと、どこか別世界へ遊んだような気分になる小じゃれた公演であった。



    ネタバレBOX

    終わり近く、子供と母親のみぢかいシーンがあるが、子供の声が上手側では聞き取れない。下手を向いている子供には全面に聞こえるように発声するのは無理な技術なので、ここは、場内音声がフォローしなければ。音もいいホールで音響効果はいいのに残念。

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    2019/08/03 11:27

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