満足度★★★★
現代演劇で、良い芝居ってなんだろうって思うんだけど。それは、観た人のリアルにゆらぎを与えることができる芝居、ということかもしれない。劇が終わって余韻にひたる、という心地よいものじゃなくて、お芝居の影響で自分がこうだ、と感じているものの見方が揺らいでしまうような体験が、たまにある。
はねるつみきを観たのは初だけど、まさにそういう感じの体験だった。
このお芝居のタイトル「ばよんばよんと聞こえぬ」。不思議なタイトルだけど、芝居のテーマをうまくあらわしていると思う。この芝居は、数人の若い男女(おそらく大学生)が暮らすシェアハウス内で起きる出来事と人間関係を丁寧にえがいていて、芝居はこのハウス内の談話室から一歩も出ない。「ばよんばよん」というのは、この物語で、一人の女性が耳にする音のことである。彼女一人が、ある空間にいる時、ある空気の中にさらされるとき、その音が聞こえてくる、と言う。音は、他の登場人物の耳には届いていない。なので、彼女も周りも、それは幻聴、本人の病なのだという扱いをしている。つまり「聞こえぬ」という言葉には、本人にとって「聞こえていた」ということと、他の人たちには「聞こえてない」という二つの意味が掛け合わされているように思う。正反対の意味の「ぬ」。この「ぬ」のギャップから生じる居心地の悪い何か。それが人間関係や気持ちにどういう影響を与えるのか。