満足度★★★★
長年の知人とも言える脚本・演出家の福島真也が主宰する劇団東京イボンヌの公演を観てきた。今回の公演は、朗読劇公演として行われた第14回公演の演目『無伴奏~消えたチェリスト』の舞台上演形式での公演であった。
実は東京イボンヌという劇団は過去に2回の休団時期がある。その活動時期を第一次、第二次、第三次と捉えるなら、今回の公演は第三次時期最初の本格的舞台上演といえる。その作品である『無伴奏』は、第一次活動最後の舞台として取り上げた作品の改訂版といえる作品であり、この劇団で上演された作品の中で個人的に一番好きな作品である。
さて、そのあらすじをコリッチに掲載された文章に補足を入れて解説しておこう。
◇ あらすじ
過去に生きる男と未来を見続けた女。
長野の山奥深いペンションに世界的なチェロ演奏者がやってきた。
彼女は12年前のアルバイトであり、オーナーの「3ヵ月限定」の恋人であった。
「住む世界が違うの。ここいにる3ヵ月だけ。それでもいいの?」
気まぐれにアルバイトで来た貴子、ここでの生活しか知らない圭。
そして3ヵ月が過ぎ、彼女は去った。未来を見続けるために。
圭はその過去だけで生きようと思った。
そして12年後、突然貴子がやって来た。
※今作はラストシーンの違う二つの世界観を、二人のヒロインによって上演します。
「無伴奏」・・・圭の決断
「消えたチェリスト」・・・貴子の決断
貴子が12年振りに圭に会いに来たのは、離婚問題もあったが右手に力が入らないという病気に直面し、夫ではなく自分の一番大切に思える男性、つまり圭に会いたかったから。自分の病気が死に直結する難病ではないかという不安を告白する、その告白シーンが劇としてのクライマックスであろう。
第一次活動期での本作は、貴子の病気は貴子の予感通りの難病で、結局圭が会いに行こう決心するのと同時に死亡し、圭が呆然と佇むシーンで幕を下ろしたが、今回の公演では貴子の病気は完治し、「無伴奏」では圭が一大決心をして貴子のコンサートを聴きに出かけるシーンで、「消えたチェリスト」では演奏会の放送の中で、「この演奏を一番大切な人(=圭)に贈ります」と行って演奏するのを圭が聴き入る、というシーンで幕を下ろした。
本作の成否の鍵は、貴子役と圭役の力によるところが大きい。今回、貴子役を「無伴奏」では香取佑奈、「消えたチェリスト」では葉月美沙子が演じ、圭役はどちらも樋口大悟が演じた。個人的に2つの終わり方のどちらが好きかと問われたら、「消えたチェリスト」だろう。あくまで朴訥とした性格を崩さない圭が貴子の気持ちを感じ取るという意味では、やはりチェリストである貴子の演奏の流れるラジオに聴き入るというシーンにしみじみと感じ入った。貴子の気持ちに応えるという意味合いを強く出すには、圭が貴子のコンサートに行くことでお互いが自分の気持ちに五分五分の行動を起こすという結末になるのだが、12年という時間を隔てての二人の気持ちの変化という面からみて、「自分はあのときの3ヶ月で生きていける」という台詞を生かす意味からも「消えたチェリスト」の結末に心を動かされた。
ただし、貴子役の葉月美沙子の演技はちょっと張り切り過ぎる場面もあり、時に心の内を表出せず内に秘める場面もあって良かったのではあるまいか。その点では、平均的に「無伴奏」の香取佑奈の演技が光った。
圭の演技は相手役に上手く反応して違いを出していたが、心情の振幅の表現は「消えたチェリスト」に強く感じた。
そのほかの出演者としては、重要な登場人物の一人であるカメラマン・及川役の森山太が味わい深い演技を見せた。また、貴子の友人役二人の内、香苗役の水瀬まなみもなかなかの演技であったように思う。
次回公演は、第二次活動期に上演した『酔いどれシューベルト』だとか。これまた期待したい。