満足度★★★
イスラム圏とどう付き合っていくかは、今世紀の非イスラム圏の世界的大問題で、確かに「世界最前線」ではあるが、それがたちまち「世界最前線の演劇」となるかどうかは疑問である。両者の文明の基盤が違い、共通の価値観を持ちうる部分についても手探りの状況である。はっきり見えるのは、政治的武力対立だが、他の領域でもわからないことは多い。
この芝居は、イスラム圏の政治対立の内乱の真っただ中で、非イスラム圏の価値観(西欧的な自由主義)を持つイスラム人男女(松田慎也・占部房子)が圧殺される物語である。味方も敵も、ともにイスラム教のもとにあるのだが、どこがどう違うかは、西欧的な自由主義を認めるか、どうかだけしか観客には解らない。主人公の男女も、まるで何も知らない日本人男女のような雰囲気で、同じ宗教のもとにある者同士の葛藤がない。そこを、このイスラムに生まれた作家が書いてくれなくては、異教徒にはどうしようもない。そこは役者の想像外だ。
戯曲の視点も、国際的な意図もあるのか、西欧的な近代的価値観のもとに書かれていて、異形の暴力に巻き込まれた自由主義者の悲劇になっている。救いのない話で、そういう実話は現在のイスラム圏問題の最前線では起きていることなのだろう。そのことは観客も知っている。
だが、本当に観客がみたいのは、いささかスリラーめいた脱出劇の成否ではなくて、そこに生きる人々が、どのような生き方をしているかであって、この芝居はその肝心なところを殆ど型通りの設定でしか見せていない。
舞台が小綺麗にまとまっているのが、何か空々しい感じさえする。事件の真っ最中に演劇の場を設定するのは受けやすいけど、中身は乏しくなる。この最前線演劇はそこから逃れられていない。