芙蓉咲く路地のサーガ 公演情報 椿組「芙蓉咲く路地のサーガ」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    総勢36名の新劇団から小劇場まで、さまざまな出自の俳優が土の舞台を駆けまわる、年に一度の野外テント劇である。
    今年の題材は中上健二。作家としては評価も定まった感じの昭和の逸材で、かつて、何度も映画化、舞台化が試みられたが、あまり成功したものはない。日本の原点とも言える土着文化を掘り起こしているのだから、切り口がつかめそうなのにうまく具象化できない。
    ナマの人間で見せる演劇には有利に思えるのだが、既成の俳優だと、俳優個人のキャラクターが邪魔をしてしまう。それだけ原作が日本人の多様な側面を深く描いているとも言えるのだが、なかなか抽象的な文字の世界には及ばない。しかも、その世界は、今は消えてしまった昭和アンダークラスの路地である。
    この舞台で、その空気をいささかでも体現出来た俳優は残念ながら少ない。それは当たり前で、日常生活で手掛かりがない若い俳優には雲を掴むような話なのであろう。ほとんどの若い役者は浅い知識でそれらしくやっているだけだ。そのなかで、主演の加治将樹は、よく中上の世界を体現していた。ほかの舞台も見てみたいと思った。山本亨は幅広くこの役を掬ってまとめ上げて、好演。柄は違うのに存在感を出した水野あや。作・演出の青木豪も身体的には知らない世界だから、ときに原作に遠慮してか(全体としてはご苦労様と言う出来なのだが)最後の肝心なところでは、中上頼りのナレーションになってしまう。結局、芝居にし切れていないのである。まぁ、それほど、中上健二と言うのは難物なのだ。この野外劇公演では、アンダークラスから日本の原点に迫ろうとした企画は多いが、中上の場合は「路地」に籠めた土着の精神性がある。今回は、類型的公演は脱したとはいえ、すこし荷が重かった。
    しかし、夏の一夜、普段は様々な劇場で主に脇役で舞台を締めいる俳優たちが様々な場所から集まったテント公演を見るのは、解放的なフェスティバルの雰囲気もあって観客にとっては楽しい芝居見物だった。

    ネタバレBOX

    アンダークラスを扱うと、どうしても「差別」に触れざるを得ない。現在、あらゆる表現領域で、社会的差別をたタブー化する風潮がある。この公演でも、メディアでは論難されるような表現は少なくなかった。しかし、それに触れない、触れさせないというのは文化の圧殺である。どうか、表現者の矜持を持って、そのようなタブーの臆することなく、真実に迫る芝居を作ってください。

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    2019/07/17 11:47

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