満足度★★★
鑑賞日2019/07/16 (火) 19:00
座席B列3番
中上健次の自伝的な作品「岬」「枯木灘」「地の果て至上の時」を1つにまとめた舞台。
中上健次の生い立ちを調べると、主人公秋幸はまさに健次の立ち位置であり、名前こそ改変されているが、血縁関係はそのままといってよい。あくまで創作なのだが、実父の本名「留造」が作品では「龍造」と読みは同じで文字だけ変えられているところなどは、かなり人物像が酷似しているのかもしれない。異父兄の自殺などはそのままだ。
さて、私は小説未読なので、かなり的外れなことを書くかもしれない。
どうも、この舞台、話の据わりが悪い気がしてならない。かなり散漫な感じがする。
タイトルにある「芙蓉咲く」の芙蓉の意味が解らないし、「路地」という土地への主人公の執着も、やっと後半にならないと感じられない。ここで「サーガ」というのは、連作をまとめあげた長編ドラマといった意味なのだろうけれど。
この原作3つは、確かに話としては時系列に繋がっているのだけれど、おそらくそれぞれの作品で描かれるテーマと表現方法が異なるのだと思う。それを1つに繋げたことにより、各テーマが薄まり、ただただ秋幸が苦悩する話になってしまい、タイトルのような話にならなかったのだと思う。
おそらく、①複雑な血縁関係への秋幸の懊悩②龍造という人物と彼への秋幸の憎悪③路地を起源とした秋幸の存在証明 というように3作は作られていたのでは、と思う。
例えば、映画「ゴッドファーザー」と「ゴッドファーザーPart2」は連作だけれど、それを1つにまとめられないのと同じ。テーマも違うし、表現方法も違う。あくまで、別作品として個々に観て、はじめて「サーガ」である。
むしろ、この夏舞台に持ってこずに、スズナリなどで、3部公演で、じっくり描いたらよかったのではないかな。
つまらないわけではない(役者さん各自の力量でしっかり芝居は魅せている)が、これといってやられた感、なるほど感もない。
外部の役者さんについて
山本亨さん、相変わらず複雑で、心のうちに何を持っているのか判らない役柄はうまいなあ。
驚くくらいに天真爛漫で鷹揚(ある意味、薄情)な一方、貪欲な野心と殺める凶器を懐に隠すようなアンビバレントな表現、いつもながら感心します。
天動虫のジョニーさん。けして出番は多くないですが、インパクトは女優陣の中で1,2.
アラサーになって、ついに娼婦や妊婦の役をやるようになったのですね。天動虫では、同じ役柄でも、どうしてもコメディ寄りになりますから、外部出演は大事です。とはいえ、16歳の役をやっても、それなりに見えてしまうのが恐ろしい。