満足度★★★★★
夏の梁山泊 on 花園神社境内を今年も観劇。桟敷での観劇は苦行だったが甲斐有り。
雨を堪えた日の夕刻、外気は幾ぶん涼しいがテントの中はじんわり暑い。前方席につき、透明ビニルシートの具合を確認。頻回の水攻撃は防いだが、終盤血のついたナイフからの飛沫を被弾。
そのくだりを思い出すと、主役(男)が他人の台詞の合間を盗んで、左手からナイフを持つ右手へ何かが移るのを見て、オ、血ノリだな、と思い手元を凝視する。と、ヒロインが帰化書類の捺印に必要な印肉を提供するため、左手にナイフをあてがい、血糊を手元で絞ればナイフの刃に沿って皮膚上を流れるという按配であった。
そんな風にドラマ外のあれこれに注意を向けながら同時進行でドラマを味わうという脳内操作がほぼ全般に亘る。自分は何を見ているのか・・・問う前に躍動する自分を感じる。
難儀な物語説明は省き、幾つかのキーワードを。
・箱師(この界隈では掏りの事)
・主役(男)は山手線でスリを重ねた過去があり、名を山手線と言う。
・床屋
・エンバーマー、エンバーミング(遺体衛生保全)。ヒロインが日本で生きるために取った資格。最後に「帰化」を要求される。
・右の二の腕の痣=蛇のうろこ(ヒロインの幼少時の秘密。“山手線”に自分が蛇姫である由来を語り、「姫」と呼ばせる)
・小倉、キャンプ城野(ここで起った黒人米兵脱走事件もモチーフの一つ?)
・小倉砂津港を出た船(母が乗った船。遺体を故郷朝鮮へ運ぶ目的だったが、母は何人もの死体に犯されたという。ヒロインはその娘。)
・母の手帳(山手線から掏られたそれを取り戻し、母と自分の過去を探る旅をしている)
・スプーン(手帳に挟まってあったもの。癲癇持ちのヒロインが発作時に加える)
・バテレンさん(幼いヒロインを知る神父、やがて信仰を捨てる)
「姫」を演じる水嶋カンナが亡き母の過去、即ち己の出自を探りながらもその危うさに恐れおののく可憐な姿は、年齢がそう見せるのか知らないが役者の奥行きを感じさせ、殆ど幻影に等しい物語世界を観客の前に肉感的に立ち上がらせた。
ラストの屋台崩しは、お馴染みの男女コンビの片割れ、申大樹が降り注ぐ水の中へ立ち向かっていく姿、その先には長い胴をくねらせ天上へ昇る大鶴義丹演じる狂える蛇の化身。蛇の夢は縁起が良いとか。
危うい滑舌もキャラとなりつつある年々テント舞台にこなれて行くかの大鶴氏、ギター芝居も達者な(名前失念)、あられもなく肌を見せるも得体の知れない役柄に収める傳田圭奈(新人として紹介されたのは十年前だったか)、その犯罪姉妹の姉の方を演じた佐藤梟(捨てるものなどないかの如き)、梁山泊と歩いて幾年月、三浦伸子、といった面々に思わず声援であった。