THE NUMBER 公演情報 演劇企画集団THE・ガジラ「THE NUMBER」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    THE・ガジラの「年間ワークショップ発表」が今年は「GAZIRA S.A.T」(=サテライト)と呼称が固有名詞になり、あな嬉しやいずれ「劇団」化も視野に?と想像を膨らませたが、説明のくだりには「鐘下による実験的公演」とだけ。「発表」というレベルでないな、とは前から感じてはいたが、見合う名称をという事か?
    それよりも、鐘下流の「かなぐり捨てる」演技領域にまで身体を追い込む劇が、「劇団でもないのに」やれてる事に着目すべきかも?遠未来SFの独特な世界をワーサルに作りこんだ装置、照明、演出趣向もさりながら、俳優の貢献の比重は非常に高いと感じた。作品もユニーク。

    ネタバレBOX

    今作はSF作品を台本に書き下ろした、一応「新作」のようである。今まで無かった特徴として、なぜか体言止めの台詞が多く、話し言葉化しきれないニュアンスを「詩」に寄せたような感じを持った。オドシに近い音響効果が「単なる場転じゃん」な箇所にも使われたりと部分的引っ掛かりがあったが、終演してみればこのソ連時代(戦前)に執筆され冷戦崩壊まで陽の目をみなかったSF小説の世界=1200年後の未来の世界に、浸っていた。
    「これは隠喩ではない。この目で見た事実だ」として本人の手記を元に紹介されるエピソードは、「管理社会」を隠喩したSF作品である点で「1984」を連想させるが、風合いは随分違う。
    宇宙開発競争を既に見通したかのような記述や政治的泥臭さを連想させる要素は無いわけではないが、この物語の議論は人間の権力志向の極限での管理社会化でなく、人類自身が選択した社会であるとしている点が特徴。人間は自由を求めるが、それを使いこなせなかった、との強い反省が高度な管理システム(の正当化)の下地にある。恋愛が管理主義と相容れない要素としてドラマを動かす部分など「1984」とも共通するが、物語の流れとしては(小説の出来は知らないが)こちらの方が飲み込み易い寓話である。
    計画経済の優位性は東欧社会主義体制の崩壊で瓦解したとされるが、最大の弊害は「正しさ」を背景に正統化される一党独裁制と官僚制にあって、チェック機能の働かない仕組みでは「何がより適切な計画か」は判定できない、ばかりか粛清までが起きた。しかし、という事は一定の適切性が担保されるシステムがあれば計画経済も理論上は悪ではないとも...。科学文明が人類自身に差し向ける危険と、自由主義がもたらす恩恵とを天秤にかけ、どちらが人類が選ぶ道に相応しいのかを「二百年戦争」という自由がもたらした惨劇というフィクションを付加して(下駄を履かせて)議論しているのが今作であるが、どちらが正しいかは実は自明でない事を思う。

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    2019/06/22 08:19

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