満足度★★★★★
鑑賞日2019/06/13 (木) 14:00
座席1階1列
2019.6.13㈭ PM14:00 阿佐ヶ谷 シアター・シャイン
梅雨の晴れ間の青空の下、阿佐ヶ谷のシアター・シャインへ、葵ミサさんが出演されているSECOND HOUSE旗揚げ公演「チューボー 〜SECOND HOUSE Ver〜」Bチームを観に足を運んだ。
最前列真中の席に着き、舞台に目を転じるとレストランの厨房がある。この厨房を舞台に繰り広げられる物語。
高林は、イタリアンの名店『ル・ブリラーノ』のオーナーシェフで、雑誌等で天才シェフともてはやされていた。
元洋食屋のオーナーシェフの山辺は、借金を抱え閉店した自分の店の再起を図るため、高林の店『ル・ブリラーノ』に再就職したのだが、正反対の二人は事ある毎にぶつかるが、ぶつかり合いながらも山辺は料理人としてのプライドと喜びを取り戻して行く、そんな中『ル・ブリラーノ』にも不景気の波が押し寄せ、今度は高林が追い詰めらて行く…。
今日が千穐楽であり、これからご覧になる方もいられると思うので、あまり詳細な感想は記すことは控え、観終わったあとに感じた事のみを簡潔に書くに留めます。
身体と厨房にある物を叩いて音を奏で、それがやがて音楽のようなリズムになって行くストンプで始まるオープニングが見事で、圧巻。まずこれを観るだけでも観る価値がある。あのオープニングで、これから繰り広げられる世界に一気に引き込まれた。
帰宅してフライヤー読み、旗揚げ公演だった事を、知って驚いた。面白いのは勿論だが観た瞬間、凄いと感じた。
この時代に生きて働いていたら誰でも1度は感じ、立ち止まって考える事がある物語に、どの登場人物にも頷ける部分があり、それ故に、それぞれが話す言葉にハッとしたり共感出来る涙あり、笑いあり、歌ありの現代の日本と働く人全てに起こり得る、抱える問題を重過ぎず軽過ぎず、けれど肩に力が入ることなく舞台を観る事で自然に自分に置き換えて見入り、考えてしまう舞台。
要所要所で登場人物たちが放つ、仕事に関する世界の著名人の言葉にも、頷いたり、胸に染みたり。
父から受け継いだ洋食屋をこのままずっと、料理を作り、家と店の往復だけで終えて行くのかと心に迷いが生じ、料理を作る事に身が入らなくなり自分が店を傾け、閉店した事で自分を責め酒に溺れ、酒でしくじってはレストランを転々とし仕事が続かない山辺(梅木駿さん)は、1つの仕事をずっと続けて来た人が、誰でも1度は感じる焦燥、迷いであり、自分にとって仕事とは何だろうという疑問であり抱く思いである。
高林(宮川智之さん)にしても、天才と言われながらその事に馴染めない自分と、ただひたすらに美味しいイタリア料理を気軽に楽しんで欲しいと価格を中途半端に手頃に設定した事が、自らの首を絞め始めた状況を打開する為に、経営コンサルタントの上原(花咲まことさん)に付け込まれ、店を乗っ取られる形で店を閉店せざるを得なく追い込まれるながらも、そこから初心に立ち返りつつシェフとしてだけでなく、経営者としての手腕も身につけ、また、同じメンバーで店を再開する為に立ち上がり、立ち向かう姿に、1つの仕事に魅入られ、その好きを変わることなく続け手放さずに極めて行く事で、その先にある自分にとっての仕事と何かを見つけ、辿り着き、また、歩き続けるその姿もまた、仕事をする人、働く人、人が誰でも感じることだろう。
上原(花咲まことさん)も、確かに計算高く、言う一言一言が、嫌な奴ではあるがひとつの真理でもあり、それは、仕事の持つ1つの事実でもある。こういう人間はどの会社、どんな世界にもいる。上原という存在があったから、高林始め、山辺も『ル・ブリラーノ』のスタッフも仕事とは、自分にとっての仕事とは何かに向き合ったのかも知れない。
高林の恋人香(葵ミサさん)は、ただ欲望に忠実なだけに見えるけれど、高林への愛はあったのではないか。けれど、高林の真ん中にあるのは料理を作る事であり、店であり、弱音すら自分に吐いてくれない、一番言葉を必要とする時に、自分の思いを言葉にしてくれない、自分ではなく自分の後ろを常に見ているような寂しさ故に、高林の元を去ったのではないのか。彼女にとっては、仕事より愛若しくは心地好く楽しく生きる事、生活させてくれる人が一番大事だったのでは無いか、それもまた1つの生き方である。
全編を通して、自分にとって仕事とは何か、働くとは何か、自分は仕事に、働く事に何を求めるのか、観ている側に、そして、その役を生きる者に問いかけてくる。
私自身が何度も考えて来たテーマ、『自分にとって仕事とは何か、働くとは何か、何をしてどう生きたいのか』を改めて考えた笑あり、涙あり、歌ありの素敵な舞台だった。
文:麻美 雪