満足度★★★★
文化座をたまに観るようになってまだ数年だが、金守珍、鵜山仁といった実力者を演出に招いた時は満を持しての新作である。今回挑んだ石牟礼道子の「苦海浄土」は劇団代表佐々木愛氏によればずっと高みにあった目標、でもやるなら今と思ったという。そして初の演出は栗山民也氏。
私が観た栗山演出舞台はこまつ座と新国立劇場公演を数える程度だが、サイズ大の舞台でインパクトある美術、視覚的な構図へのこだわり、粋な仕掛けといったイメージが占める。テント芝居や桟敷童子の<仕掛け>を知った目には、正直、費用対効果的にはイマイチな印象も(調べてみたら地人会新社「豚小屋」という小劇場での秀逸舞台もあった)。
だが、こたびの文化座公演、ハコとしてはやや小さい俳優座劇場の舞台にハッとするよな美しい絵が言葉以上の雄弁さで物語る瞬間があった。最初のそれは自然の雄大さ無慈悲さを示すモノトーンの息を飲む美しさ。最後のそれは、その自然の中に人が集まり寄せ合う心が織り成す光景の見事な構図(この絵を思い出すだけで泣けて来る)。
ある構図を成すことで何かを伝え得る事を思い知らせた本作は、演出家栗山民也の力を初めて実感させられた意味で突出した作品になった。