『アニマの海』─石牟礼道子「苦海浄土」より─ 公演情報 劇団文化座「『アニマの海』─石牟礼道子「苦海浄土」より─」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    文化座をたまに観るようになってまだ数年だが、金守珍、鵜山仁といった実力者を演出に招いた時は満を持しての新作である。今回挑んだ石牟礼道子の「苦海浄土」は劇団代表佐々木愛氏によればずっと高みにあった目標、でもやるなら今と思ったという。そして初の演出は栗山民也氏。
    私が観た栗山演出舞台はこまつ座と新国立劇場公演を数える程度だが、サイズ大の舞台でインパクトある美術、視覚的な構図へのこだわり、粋な仕掛けといったイメージが占める。テント芝居や桟敷童子の<仕掛け>を知った目には、正直、費用対効果的にはイマイチな印象も(調べてみたら地人会新社「豚小屋」という小劇場での秀逸舞台もあった)。
    だが、こたびの文化座公演、ハコとしてはやや小さい俳優座劇場の舞台にハッとするよな美しい絵が言葉以上の雄弁さで物語る瞬間があった。最初のそれは自然の雄大さ無慈悲さを示すモノトーンの息を飲む美しさ。最後のそれは、その自然の中に人が集まり寄せ合う心が織り成す光景の見事な構図(この絵を思い出すだけで泣けて来る)。
    ある構図を成すことで何かを伝え得る事を思い知らせた本作は、演出家栗山民也の力を初めて実感させられた意味で突出した作品になった。

    ネタバレBOX

    脚本は文化座常連の杉浦氏であるが、今作は不思議な作りである。こういう言葉を紡ぐ人であったのか・・と少々意外。「苦海浄土」のテキストが半ば導いたものだろうか。
    舞台上は半抽象の美術。最奥ホリの空(と恐らく海)を臨む土手様のプラットホームから、手前へ3段程ひな壇式に下りた平らな広い台が主な演技エリアで、下手に仏壇、中央に座りテーブルのみで漁師の家族の居間を示す。そこに近隣者や姻戚の者等が行き交う。海を眺めているのだろうか、背後の土手上のラインにシルエットのように浮かぶ少女が戯れるように歩き、この存在の抽象性が、次元を超越した「語り」や、物言えぬ者の「心の声」、時空を超えた人物の交差を可能にしている。
    劇にも登場する作者(を象徴する役)が水俣をみる眼差しが、水俣の風景の中に混じり行く。水俣病という事件を辿る叙事詩でありながら、どこか遠く地平線から人間の織り成す情景を俯瞰する温かな視線を感じさせる。
    大部の著作から抜き出した最小限の要素を、最適な仕方で組み合せ、1時間半に凝縮した。

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    2019/06/15 22:51

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