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ハンダラ(10417)
満足度
★★★★★
逆ストックホルム症候群。華5つ☆
ネタバレBOX
サブタイトルにもあるように1997年丁度地球儀では日本のほぼ反対側にある南米・ペルーで起きた事件であり、当時のペルー大統領は日系のフジモリ氏であった。日系人が大統領になったということで、政府、マスコミこぞって大騒ぎをしていた。公邸を占拠したゲリラたちと人質となった人々との間にストックホルム症候群が出るのではないかとの情報が、週刊誌などでは騒がれていたように思う。自分自身はこの事件から余り時を隔てずに西アフリカのギニア・ビサウに入っていたし、丁度リアルタイムでは、知り合いが週刊誌の記事を書く為に現地入りをするというので色々アプローチしている話は聞いていた。だが、1次情報を現地で仕入れるまで事実を言うことができないことは、無論である。そして、自分が11月末にギニア・ビサウに入りプロジェクト具体化の為に奔走し、資材調達の準備や発注、地元アフリカの業者との折衝などを済ませた後、所長と共に発注資材の検査の為にヨーロッパ諸国に出張中の4,5月にギニア・ビサウ軍によるクーデタが起き、外務省が危険度5を出したので出張中の我々は現地に戻れなくなってしまった。無論、現地に残っていた日本人スタッフや現地企業トップなどとは使える通信手段を総て用いて連絡を取り合ってはいたが、予断を許さない状況であることは百も承知である。一方、日本本社や、関係商社に問い合わせても有効情報は得られない。それどころか、本社は、日本と同じ感覚で不可能なミッションを要求するのみであった。日本大使館は話の外、というのも日本大使館から我々に情報提供を依頼してくる有様であったから。1次情報は錯綜しているし、現地業者も難民化していたりするので連絡が途絶えがちであった。首都の一等地に偉そうに最も大きな大使館を建て親分風を吹かしていたアメリカ大使館員は、砲弾か何かが着弾したら、真先に逃げ出した。そりゃそうだろ、大した地下資源が在る訳でも無ければ即手足として利用できる有用な存在が居るのか、それが本当に分からないという情況下、金儲けに繋がる事象にしか興味の無いアメリカがリスクを負う訳は無いからである。
閑話休題。今作の執筆に使われた資料は、共同通信社が出した「ペルー日本大使公邸人質事件」だが、特殊部隊が突入した際、関連書類等は消失したとも隠されたとも言われ、謎の部分が多い為、事実は判然としない。然し乍ら、全員が虐殺されたゲリラの相当部分が、貧しい家計を助ける為に2週間雇われるというアルバイト感覚でリクルートされた若者達であり、中には若い女性も混じっていたのは事実。一応、銃器の扱い方などは学んだものの、プロというには余りに幼い者達が多かったこともあり、今作で描かれているようなゲリラVS人質というよりずっと人間的なコミュニケーションが成り立っていた模様である。それだけにフジモリの判断は余りにあざとく無慈悲であると感じられた。中南米の歴史を繙くまでもなく、1492年にコロンブスが西インド諸島に到達して以来、スペイン・ポルトガルによる植民支配、加えて現地人が免疫を持たない病と植民者サイドの被植民者酷使による死亡によって現地人が激減するとアフリカからの奴隷を入植させプランテーションでこき使った歴史に、英・仏・蘭等の海賊行為やスペイン・ポルトガルへの攻撃などと並行した約300年の植民地時代の中で、スペイン系(副王・スペイン王に任命されたスペイン貴族、オイドール・スペイン国王任命議員、クリオージョ・現地生まれのスペイン人。当初、政治的権力無し)と現地人との混血であるメスティソ、アフリカ系逃亡奴隷シマロン(海賊の手助けなどもした)、白人と黒人の混血であるムラートなど混血が進んでいることに加え、混血している者同士の子孫もいる訳だから、人種混交の実態は極めて複雑であり、支配層と被支配層の差別・被差別も錯綜している。とはいえ社会を構成する要素として人種が大きくものをいう実態を知っておくことは極めて重要だから以下そのアウトラインを雑駁であるが記しておく。最上位には、白人・その下位に初期スペイン統治下ではクラカ(先コロンブス時代の首長)下っては、メスティソ、更に下にムラートや現地先住民というのが極めて大ざっぱなイメージだろう。当然のこと乍ら、貧富の極端な差もこのヒエラルキーに準じて存在し、貧乏人が這い上がることは殆ど不可能である。今作でも出てくる日本のカップラーメンを食べた現地ゲリラが「こんなにおいしいものを食べたことが無い」という科白や、2週間経てば故郷に帰ることが出来ると考えてお土産にカップラーメンでバッグを一杯にしていた話などは心底胸を撃つ。こんなに素朴で、貧しさ故にゲリラ化した貧民を虫けらのように全員虐殺した権力者というのは、その無慈悲が何処から出てくる何を根拠にしたものなのか? この判断を下した人間は怪物ではないのか? と問いたくなる作品であった。
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2019/04/29 15:34
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