満足度★★★★
最もパッとしない男役が主宰で、他は全員客演とは終演後知った。調べたら一人作・演出・出演ユニット。今回の「最後の上演」への思い入れは強かったらしい。
今回で封印する理由は判らないが、確かに15年選手にしては本作は若者目線のドラマ。軽快なテンポとキャラ立て優先の演出も、脚本の良さで無理を感じさせない。小ギャグの好みはそれぞれだろうが、吉本文化圏の大阪らしく本人と役が渾然一体のキャラで押し出す役者根性は私には彼我の差と映じた。
話の舞台は淡路島。しがない工場の従業員たちの、変わらない日常と、事件、その顛末を描く。最後まで「何を作っている工場か」に触れないのに、不思議と宙に浮いた話に感じさせないのは人物造形の勝利か。
中卒以来十八年勤務するベテランと、彼に毎日飲みに誘われ付いていく九年目の後輩、カラオケの合いの手も職人技のスナックのママ。飲みを断り続ける二人は、風俗にはまる中国人従業員と、進路に悩む事務の女性。朝のラジオ体操にだけ姿を見せる社長。
そんなある日、一度も飲まなかった二人が「飲みに連れて行ってくれ」と先輩に申し出る。ルーティン反復の日々に初めて波風が立つ。
テーマは食い尽くされた感のある「変わらない事の良さ」と「変化への渇望」との葛藤。地方で燻る事への倦み、自分との折り合い。上演する場所が東京か地方かでも随分切実さが違うのではないか、と想像しながら観ていた。本作は舞台が淡路島で、女性事務員が憧れるのは東京と、うまい設定である。地方都市住人が抱える憧憬する側の疼きと、される側の余裕、関西の観客は「疼き」をより理解するのではないか。もっともこれは土地に関係なく個人が持つ二つの感情でもあり、文明とその中心地が形成された古代から存在する、普遍的なテーマなのだろう。