喫茶ティファニー 公演情報 ホエイ「喫茶ティファニー」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    アゴラ劇場の壁際一杯に作られた古びた喫茶店内。下手手前にゲーム付のテーブルが置いてある。冒頭森谷ふみがお客に対してセットの事、程なく登場する幾人かを紹介するという「親切な」導入以後は、ホエイには珍しく「逸脱」「ぶっ飛び」のない地に足のついた現代設定のストレートプレイであった。
    アウトロー世界の入口として機能する喫茶店には、そうした者たちが滞留し、通過する。場の設定が見えると作者の狙いも頷け、際どい問題に突っ込んだ芝居の輪郭が浮かび上って見えてきた。
    青年団系が多いとはいえ多様な存在があって「あうん」で成立していないのが良い。

    ネタバレBOX

    この芝居は制度的に生み出されているアウトロー(従って合法世界の住人にも無縁ではない)の話である。
    ただリアルを追求すれば、中心人物である在日の青年のあり方などいささか違和感はある。

    経済的事情で(植民地由来でなく)渡日する外国人がある種の孤立の状況を嘗めている事は想定でき、外国人コミュニティのある部分がアウトロー化すれば、そこでの階層形成もあるに違いない。映画が好んで描きたがる世界だが、様々な矛盾を孕んでいるが故だろう。ただアウトローが世間的常識や法に頼らず自立心を発揮する気概の方が絵になるが、この芝居ではその主張を体現する存在をささやかに残しながらも矛盾の提示に重心がある。

    余談ではあるが・・朝鮮籍の朝鮮人は今は在日の中でも少数派というが、同じ法の埒外でも日本社会でそれなりの地位を確保するための長い運動があり、民族的紐帯も形成されているので、法的処遇の厳しさを見ずそこだけ見れば、羨ましいと感じる温かい関係がある。コミュニティを構成する国籍状況も多様と聞く。ここ10年、朝鮮学校が高校無償化措置ばかりか補助金からも見放され、教師はほぼボランティア状態で後続のために身を削っているのだとか。だがそれを支えようとするコミュニティは温かい。
    このコミュニティがまず土台としてあり、そこからはみ出した存在なら「なぜそうなったのか」が、青年の固有のあり方となってくる。
    在日の女性の方も、名前を隠すか否かなど十代に悩み尽くしているはずで、結婚相手になろうかという男性に出自を隠す事にはリスクの方に自覚的なのが普通だろうと考える。元々本名を名乗っていた彼女が仮に在日コミュニティから抜け出したくなったのは何故だろうと思うが、そうだとして国籍問題を解消して日本人のいいとこの男と付き合う順序は難しいから、結婚によって無理なく帰化するために相手を選ぶだろう、その場合の相手は彼女の出自にむしろ同情的な人間であるはずだ。

    ただ、男女二人の「らしからぬ」人物設定にも、出自を忘れる日常にあって「ある局面でその事が桎梏になる」という制度差別の本質はみえる。ほぼ日本人の感覚を持ち、就職難の現実も日本人同様に味わう彼らが、見えない差異を突き付けられる。

    ちなみに「朝鮮籍」とは日本国憲法成立の前日、それまで日本国籍者であった朝鮮半島出身者を「外国人」に括る法律が出来、憲法の「法の下の平等」の対象から排除する事ができた訳だが、その時彼らに当てがわれた国籍が「朝鮮籍」であって、実在する国に帰属する国籍とは異なる。
    つまり朝鮮籍は北朝鮮に帰属している訳ではなく「韓国籍をとる」という選択をしなかった朝鮮人たちが持っている籍、という事になる。日本の朝鮮半島植民地化がなければ彼らは元々存在しない。国や制度に翻弄された彼らが少なくとも、喜々としてある国籍を選ぶ、などという事はなかったに違いない。
    時は流れ、情勢も変わり、便利だから韓国籍をとる、結婚したら日本国籍になる、というケースが増え、韓国籍・朝鮮籍ともに年々減っている。
    一方アイヌ人には国籍そのものがない。ただ民族的自覚を持つ人間によって、受け継がれていく。そういう存在を包摂する日本でありたいが、なぜ「差異」に人は足を掬われてしまうのだろう。

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    2019/04/19 14:42

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