満足度★★★★
小型ミュージカルが取るある様式にはめ込まれた舞台、最初は不自由に感じる。ある意味これは異化効果だらけの舞台ではないか・・・と。巨大な史実を前に「必死さ」の向けどころを俳優は探しているようでもあり、身体がリズミカルに元気に動くので窮乏感も疲弊感も出ない、とか。シンセで作ったいささか安っぽい音の音楽も含めて、役者の演技もリアリズムからは遠い「形」(悲しみや怒りは表現されるが表象・記号として作っているように見える)。画素数が高いのがリアリズム追及の方向だとすれば、これは思い切り低く設定したデザインという感じ。歌は真摯に歌われるが先述したようにシンセ音が「なんちゃって感」を出してるし。
だが仮そめの作り物だと割り切った形式の中に、胸をつくような印象的な場面が挟まれ、そこがえらく映像記憶に残る。
「はだしのゲン」の印象的な場面がなぞられていたが、ゲンの死んだ弟信二そっくりの隆太との場面など、漫画のニュアンスがうまく出ている。最も印象に残るエピソードの一つが、お金につられてゲンらが連れられた屋敷の一室に寝起きする蛆の湧いた体をもてあます元画家志望の男がゲンらに会って絶望の中にも元気を取り戻す話。そこで手にしたお金を持って急ぎ病気の妹にミルクを買って帰るのだが、被爆直後の惨状の中で唯一ゲンの心を温くした新たな命は今しがた奪われていた。原作にあったか記憶にないが、戦後「勝者」側となった朝鮮人である親切だった隣の朴さんと、日本兵となった朝鮮人が町で出会い、朝鮮民謡風の望郷の歌を切々と歌う。これらの場面は少なからず揺さぶるものがあった。
装置は場面ごとの持ち込みで、床は緩い傾斜で矢板を僅かな隙間を置いて縦に敷き、下からの照明を効果的に使っていた。