満足度★★★★★
ひとみ座は初観劇である。70周年記念で気合いを入れた公演らしい。「どろろ」が新作かどうか知らないが(仮に旧レパでも恐らく原作が流行った大昔のことで人形製作も含め新作に近い再構築に間違いない)、手塚作品の中でもこれは手放しの懐かしさ、買いである。
人形劇でも糸操りは一二度観たが、操り手が登場して体を使う方式は、「芸」として馴染みはあるが「劇」を観た事はなかった。今作「どろろ」は休憩15分を挟んで二時間半である。耐えられるものか心配もしたが全くの杞憂だった。
糸操りでは人形が上下の遠隔操作で独立して見えて来る秀逸さだが、こちらは役者が身を晒して声を出す動きも表情も、他の部位を支える補佐役の入れ替わり立ち替わる様子も、つまり「裏」=技術行使を丸見せしながら人形に魂を込める(より正確には見る側の想像を助ける)。人形の寸法も大きく、小劇場スペースでは十分。立ち演技をする不特定の農民等は面を付けて生顔を隠す。従って実物でないキャラクターに人格を託するアニメ声優的演技に寄る。だから筋立てが重要になる。
宮台慎司が自分にとって演劇即ち人形劇だ、というような事をどこかで言っていたが、リアリズムの彼岸にある様式が伝え得るリアルという事を思う。クナウカの演じ手と喋り手を分離する手法、また通常の演劇の方法の中にも人形劇モデルの効果を計算したものに時折出会っている気がする。
さて「どろろ」は傑作である。これを読んだ小学生時代既に手塚治虫の古典の部類だったが、興奮して読んだ物語が蘇り、深い感動に導かれた。
なぜこの物語の題名は「どろろ」なのだろう(「百鬼丸」ではなく)と素朴に思ったものだが、原作を圧縮したひとみ座の舞台で答えに行き当たった。(というよりコミックを読んだ小学生が漠然と出した答えを思い出させた。それだけ原作を最大限尊重し再現しようとした舞台と言える。)
初のひとみ座体験に少々興奮気味だが、気になっているなら観たが良し。子ども達が大勢客席に見えた事が嬉しい。