黄色い叫び 公演情報 トム・プロジェクト「黄色い叫び」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    震災直後の「背水の孤島」が話題になった中津留氏の確かその次作、若手公演で上演された演目と記憶。トム・プロジェクトには珍しい会場、ホールの企画に参加した格好だろうか。民主党政権の「仕分け」が批判の的になったり帰宅困難者、計画停電といった「電気」に関係するワードなど時代を感じさせるが、今やる舞台としても堂々たる台詞劇だ。
    中津留氏の近年の議論劇よりはストーリー中心だが、前半は会議風景だけに「議論」は交わされ、中津留らしい違和感ある台詞も(少なくとも2ヶ所)ありつつも、疵を補って余る骨太なドラマとして見た(違和感台詞を受け流す術を身に付けたのかも)。

    ネタバレBOX

    台風の多い地域。何ヵ月か前、地盤の弱さによる電柱事故で、東京に住む青年の親が死に、帰郷してきた、という設定だ。記憶も生々しい中、今年の祭りをどうするかを話し合う青年団の会合が過疎村の公民館で開かれようとしている。親と実家を失くした青年は村に来てこの公民館の一室に起居するが、村の青年や界隈の者らと潜在的対立、というより心情的な溝が横たわる。看護師であり村の事にも献身的な若い女性は、青年に思いを寄せる。今また台風由来の雨が強まり、高波被害や土砂災害が危ぶまれるが、会議は「災害対策」とセットで祭の開催を町長に了承させた報告から始まった。団員の多くは祭の具体的な話に入っていきたい所、別の災害対策を講じるべきとの東京青年の提案から会議は紛糾していく。
    会議の後、台風の本格到来となった同日夜、仲間が土砂に襲われ運び込まれる。この場面の緊張は、不謹慎だが感動的である。東日本大震災の記憶も生々しい当時、この芝居で仲間の死と背中合せに居ながら安否を確かめに腰を上げる気力も萎えがちな中、青年団員でもある消防士が到着し、テキパキと指示を出し仲間を勇気付ける姿や、それに呼応して体を動かし貢献しようとする者たちの姿がある。
    初演当時そこに口先だけでない「絆」を見て観客は「癒された」のではないだろうか。むろん事態が深刻である程、長期化する程、美しい光景は醜い光景に取って代わられ、被害の惨状を見る痛みと甘味さも生き残った人間の加害が突きつける殺伐に駆逐される、が、だからこそ斯くありたく望む己の心を見出だす。
    あれから8年。隔世の感を噛みしめ、かつ味わいもある芝居はそう無いかも知れない。

    全労済ホールのこの催しには子ども達の観劇枠があるらしく、開演直前にロビーで待っていた20人位の小学生らが後方席に上がって来た。あたふたと中々席に収まらず、捌く大人もそこに居らず心配したが、3分押しで舞台に役者が登場(最初の1分は無言)、程なく席探しも収まり、その後は最後まで水を打ったようだった。

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    2019/03/28 01:13

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