満足度★★★★
岩松了作・演出舞台を初観劇。数年前の松井周演出「蒲団と達磨」、「市ヶ尾の坂」のドキュメント映像(市販DVD)、戯曲「テレビ・デイズ」も読んだが、岩松作品は戯曲と演出ともに目的を一にする印象があり(「書く脳」と「演出する脳」は違うとよく言われる)、岩松演出舞台を一度観たいと思っていた。
も少し岩松氏の印象を書けば・・社会派とは言われない「静かな演劇」の作家であり、自分の方法論と視点を明確に持ち、ルーティンのように作品を生み出せる職人の一人。時代に寄せる細波を敏感に感じ取り、そのインスピレーション即ち一片の細胞からクローン=劇世界を生み出す。役者への要求が人間の微妙な心理に及び、優れた俳優でないと務まらない・・そんな感じ。
舞台はその印象は裏切らなかったが、予想外な面もあり、それは意外に「静か」でなく躍動的でさえあり、まあ普通の演劇だった。ただストーリー説明は不親切(思わせぶりの時間も長い)、ただし私の見た所ストーリーは一応完成しており、小出しにして客を待たせる分だけ、役者が担う負担も大である。役者は十分やっていて人物を体現している分だけ躍動もあるが、それでもヒントは少ない。
ストーリーラインは、とある国(人の雰囲気は普通に日本っぽいが背景の植物は南方っぽい)の山中にある元学校のような建造物を拠点にして、「反政府軍」的グループ(の支部?)数名が武装ながらも日常性豊かに暮らしている。「戦闘状態」を表わすのは敵軍の存在でなく(捕虜は居るが彼らでもなく)、兵士らの「戦闘意識」である。
時々ヘリが通過し、対立する勢力との間の戦況も緩やかに進行する模様。部隊員の他、二人の捕虜、保険外交員の女性(営業に来る)、若い兵士の母親(差入れに来る)が行き交う。
過去何が起きてどういう経緯でどんな勢力図となって今こうなっている・・といった説明は台詞の端に上らない。常態化した対立関係の中で生きる事、にまつわるあれこれ(恋愛も含まれる)を徹頭徹尾個々人の「あり方」から描き出しており、関心の眼差しは人の「あり方」にあるという感じである。
架空の世界では、今の日本で一般的でない要素が強調されている。即ち、己と公との間に生じる大義、上下関係に流れる忠義・信頼、また不信。そこに様々な欲望が絡む。
発する言葉には必ず動機があり、言動は相手に影響を与え、思考や行動を引き出す。時にそれは考え方と態度の変化をもたらし、人はそれを喜びまた失望する。失望はその代償を求め、思わぬ行動へと駆り立てる。死への恐怖を押し殺すため享楽を愛す者、使命感を持ち続けようとする者・・。人と人の絡み合いの曼荼羅模様が私はよく作られていたと思う。
そこはかと流れる憂い、戦いに倦んだ身体、それをおチャラかすような女性の存在との対比など、絵としての美しさがあった。