夜曲 公演情報 アカズノマ「夜曲」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    悩める現代人が何百年も前の亡霊との関わりを通して成長もしくは自我が変化していく物語。現代と記したが、脚本(横内謙介氏)は1986年に初演しており、今から約30年前の現代である。何度となく上演された作品らしいが、自分は未見であった。
    演出は七味まゆ味女史である。直近の別作品「を待ちながら。」では役者として観させてもらったが、本作では演出家、役者として存在感を示していた。
    (上演時間2時間)

    ネタバレBOX

    説明にあるとおり、主人公ツトムは放火魔である。その舞台セットは黒焦げになった焼柱が立ち、上手側から下手側に川が流れるように緩い傾斜の回り込んだ路がある。上手側に焼けた階段等、上下の動きができる造作。全体的にほの暗いが、情景描写と同時に登場人物の衣装の引き立て効果を持っているようだ。現代人はともかく、亡霊は派手な衣装や化粧で見栄えがする。舞台美術と衣装等は見事。すでに”生”はなく、しかしこの場所(古びた幼稚園跡)に居付く疑問、不思議さは解明されないままだったが、本筋が現代人・放火魔のツトムであり、その心の変容に重点を置いているからだろう。もう一人重要人物は、放火現場で出会うサヨという少女との関わりである。ツトムが幼稚園を放火したことを喜ぶサヨ。このサヨの存在も意味深であった。

    梗概…放火魔ツトムは、旧幼稚園を放火しサヨと話すところから物語は始まる。そのうち数百年前の亡霊が次々と現れ、古の封建的なしがらみや理不尽な行為、争いごとが表出する。怨霊によって呪いをかけられた人間、身分違いの恋、武士や貴族の主従関係、有象無象の人間関係に振り回されるツトム。いつの間にかその諍いなどの制止・仲裁をするツトム、1986年当時の現代では考えられない不条理を通してツトムの心に変化が生じ…。

    さて、80年代といえば「しらけ世代」という言葉を思い出す。世相などに関心が薄く、何においても熱くなりきれずに興が冷めた傍観者のように振る舞うような、そんな代名詞的な言葉。政治的な議論、社会的な出来事など何にしても冷め、無関心になり、ある種の個人主義のような傾向。放火という愉悦犯行はその象徴のようにも思え、別意のシラケ…”真面目な行いをすることが格好悪いと反発する思春期の若者”を示しているような。ツトムの心境変化は、時空間を超えて目撃する理不尽さ、それを現在の自分の姿を投影し、といった「自己変革」。同時にシラケに示される無関心に対する「社会(世相)警鐘」といった思いが込められた作品のようだ。

    ツトム(石塚朱莉サン)は、概して明るくポップな現代人像。それに対し亡霊たちは独特な 出で立ち化粧で観せ、そこに本音(真実)は見せない。いわば虚構・虚飾の世界観である。この外見対比は重要で、同一場面に居ながらツトムの心象形成のシーンでもある。その意味で、石塚朱莉さんの演技は良かったと思うが、全編通じて同調子の(心境変化が弱い)ように思えたのが少し残念。出来ればいくつかの場面を経ることによって心境変化が顕著になるともっと素晴らしく、観応えがあったと思う。
    次回公演を楽しみにしております。

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    2019/02/03 11:15

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