満足度★★★★
演劇大手・東宝の基幹劇場クリエの十周年記念公演。東宝が開発したオーストリーミュージカルによるイギリスのサスペンス・メロドラマだ。20世紀最高の大衆ロマンとされているが、80年前のイギリスの階級社会や女性の地位を背景にしたロマンスで、今の女性観客は来ないのではないかと思うとさにあらず、10年間で三演、再演は最大の劇場・帝劇が開いた。もっとも、時代に合わせ少しづつ変えて長持ちさせるのは東宝のお家芸だから、今回もAKB48出身の桜井玲香をヒロイン・トリプルキャストの一人に組んでいる。大入りである。見たのは、大塚千弘、涼風真世の組み合わせ。
筋書だけだと、西洋時代劇かというメロドラマだが、心細い純情薄幸少女{わたし}も、前のご主人に忠誠を尽くすと見せながら、実は悪党の執事・ダンヴァ―ス夫人も、妻に振りまわされる夫も、姿を見せないレベッカも、誰もが乗りやすいキャラで、今も読み継がれ、こうして舞台化されるのもうなずける。
舞台化されたミュージカルは、長年、東宝が作ってき歌を柱にした作りで、脚本も、一幕は身分違いのロマンス、二幕は豪邸に潜む謎とサスペンス、に絞ってあり、2時間50分、20分の休憩をはさんで飽きさせない。一幕では、ロマンスにはさんで、雇い主(森公美子)、夫の姉夫婦(出雲綾・好演)、貴族仲間のゴルフとかコミックリリーフもうまい。二幕のマンダレー館は、正面に遠見に大海の荒波が打ち寄せている大きな窓と、カーテンで顔が隠れている前妻レベッカの肖像画を壁にかけているセットがいい。シ-ンも多いが道具の出し入れ、音楽のつなぎもスムースで破局の火事のシーンまで一気に進んでいく。
夫マキシムは山口祐一郎、少しお疲れ気味か、以前のような男の色気に陰りが見える。ダンヴァ―ス夫人の涼風真世、コワい、歌がうまい。私の大塚千弘、演出の山田和也。どうということはなのだが手堅い。しっかりした脇役たち。そこにも今迄になじみのない俳優もキャスティングされていて、結構力を見せている。こういう周囲を育てて、今の東宝ミュージカルがあることを実感する。安易にジャニーズを呼んできて混乱を起こす愚挙をしなくても大入りにできる、老舗の価値はある。贅沢を言えば、ダンスシーンに縦横の動きだけでなく、立体的な振り付けが欲しい、とか、オケピが半端だなぁ、とか、山口にもダブルキャストがあってもいいじゃないか、とか思うが、それはそれで難しいことでもあろう。