満足度★★★
この劇団のこの劇場での連続公演も後半になって、今回は正月と言う事もあってか、骨休め娯楽編。地方競馬の話である。
素材選びで工夫する作者だから、地方競馬となれば、動物愛護、とか、公共賭博、地方地自体の財源、とか俗耳に入りやすく、また議論際限ナシの「喫緊のテーマ」が面白おかしく(結構、無責任に)展開するのかと思いきや、今回はそういう難しい話は後退して、走る馬と、走らせる人間のヒューマンドラマである。内容的に新鮮味があるわけでもなく、安易なテレビドキュメンタリーや週刊誌特集のレベルの話題である。地方競馬に回されてきた故障馬、老齢で中央で走れなくなった馬、地方の牧場の経営危機、閉鎖的な仕事場など、こういう物語向きの人物と馬の配置で舞台は進行する。
競馬を舞台に上げる工夫と言えば、競走馬6頭と、競馬関係者6人をダブルキャストで組んでいて、俳優が時に馬、ときに人間になって進行する、と言う点と、瀬戸内海を挟んだ尾道と丸亀の地方競馬に場面を設定していることだろう。第一のかなり無理な設定も、舞台だからこそできる約束事で面白く運んでいくが、やはり、馬に人間的な感情を乗せすぎると、違和感がある。笑っていても、失笑という感じになる。俳優たちが、初日ということもあるが、全員柄に頼っていて、しかも経験が乏しいので百人の客席に(満席だったが)隙間風が吹く。馬に限らず動物を擬人化したいい舞台はたくさんあるが、人と動物の按配が難しい。なかなかキャッツのようにはいかないのだ。
海を挟んだ地方競馬と言うのは、馬が海を見て感懐にふける、最後の根岸競馬は船の汽笛だけが聞こえる、というところをやりたかったのだろう。そこは、競馬場の賭博の空しさを季節に託して効果はあるが、これも寺山修司の詩一篇に及ばない。。