遺産 公演情報 劇団チョコレートケーキ「遺産」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    七三一部隊で人体実験を行なった医師と、被験者(マルタ)に接して働いていた特別班の隊員の現在と過去が交錯しながら舞台は進む。
    いかにも人の好さげな今井医師(岡本篤)は他の医師が口実を付けて断ったマルタの人体実験も引き受けてしまう気弱なところがある。同時にその今井が平然と白衣を血に染めて人体実験を行なう。
    マルタは「丸太」からではなく、素材という意味のマテリアルからつけたものらしい。まさに実験素材だったわけだ。
    生きた人間をも解剖したという七三一部隊の人体実験の被害者は3000人にも上り一般市民の中国人も多かったという。
    いっそ、医師の彼らが人間の皮をかぶった悪魔であったなら、私たちはどれほど心を撫で下ろしたであろうか。

    時代の流れと大きな組織の動きの中で、私たちはどれだけ自分の良心と自分の行動を律することができるだろうか。同じ過ちを犯さないとは言えるだろうか。

    ネタバレBOX

    今井は、大学で教鞭をとることを退き、七三一部隊関係者が多くかかわったグリーン製薬に転職する。高給が保証されていたことに変わりはないが。グリーン製薬は非加熱製剤でエイズを蔓延させ社会的に責任を問われた会社である。
    今井は晩年、自分のしたことの罪を激しく悔やみ、それでも自由に自分のやりたい人体実験ができたあの頃を充実していたと告白する。
    実験動物たちの墓に手を合わせていた今井を慕っている後輩の中村医師(西尾友樹)は、死の床にある彼を見舞う。今井が処分をせず密かに持ち帰った人体実験のカルテの秘密とその処遇の顛末が、当時と現在が前後して描かれていく。
    当時17歳の少年隊員川口(足立英)は日常的にマルタに接し言葉を交わし逆に慰められたりしていた。天皇陛下のためと教えられていても、目の前で被験者に行われる様々の人体実験を見て腰を抜かす十代の彼が痛々しい。だが、先輩隊員の陸軍傭人西田(佐藤弘幸)が慣れた様子でマルタを引き立て殺害し焼却していく。
    現代の場面で、隊員一人である木下(原口健太郎)が登場。戦後帰国した彼らが、互いに連絡を取らないこと、部隊で見たことの守秘義務、公職につかないことを約束させられ、世の中から隠れて生活してきたことが明かされる。
    人体実験の結果資料をアメリカ軍に引き渡すことを条件に、罪に問われることもなく医学界の要職に就いた医師たちと、助手となって証拠隠滅活動までした隊員たちとの明暗。同時にその医師たちに命を救われた患者も多いに違いない。

    0

    2019/01/06 21:53

    0

    0

このページのQRコードです。

拡大