評決-The Verdict- 公演情報 劇団昴「評決-The Verdict-」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    ミステリのベストセラーで、映画にもなってヒットした原作の舞台化である。ただし、それは四十年ほど前のこと。(原作は78年、映画は82年。脚本・マメット 監督・シドニールメット、主演・ポール・ニューマン) 今回は海外で脚色された台本の日本潤色版である。クレジットに構成・演出となっているから,かなり手を入れて2時間半(休憩10分)にまとめたものだろう。
    原作の舞台は保守色の濃い東海岸のボストン。若気の至りで周囲に構わず正義に走り、中年に及んでアルコールにしかいき場がなくなった弁護士ギャルビン(宮本充)が、一念発起、教会のバックアップのある大病院の名医たちの医療過誤裁判の被害者の弁護人となり、勝訴するまで。その間に、アメリカ社会の基盤である保守的なさまざまの勢力(宗教(キリスト教)、裁判官制度(弁護士制度)、最新医学システム、民族・人種差別、などなど)が拮抗するアメリカの国情が告発されている。映画もその辺に重点を置いて、一種の社会ドラマとして評判にもなったが、今、日本でそのまま芝居にするには苦しい。
    劇場の無料パンフレットによると、演出の原田一樹も原作と日本の観客の間でかなり悩んだようだが、結局はミステリ調裁判劇を選んだ。(少しわき道にそれるがこのパンフレットは充実していていいのだが、薄い黄緑の地に白抜きの字と言うのは劇場の明かりでは読めない。家へ帰ってからでも読むのに苦労する。意外にこういうところに無神経なのも昴らしくはあるのだが、折角のパンフレットが無駄になる)
    不利な状態の中で、どうやって裁判で勝つか、というゲーム的な面白さを軸にしているわけで、幕開きはまず事件現場の手術室から、始まり、訴訟の中心点となる4分半の心臓停止からの回復時間、手術予備の記録が正しいか、などなど、医療過誤の焦点も解りやすく、それを守ろうとする病院側とそれを破ろうとする弁護士側、の攻防のサスペンスも面白い。裏では被告側大弁護団が送り込んできた女スパイ、などという原作の設定も生かしていて(この話をカットすると丁度いい時間になると思ったが)、裁判劇としてはよくまとまっており、飽きさせない。登場人物30名近く。配役キャストで22名だから、大劇団昴の大作である。もともと翻訳劇はやりつけている劇団だから、翻訳調台詞には日ごろ吹き替えで稼いできた実力もあって、よくこなして、まるで、映画の実演を見ているようだ。
    それはそれでいいが、この原作や映画持っていた、原作の医療と裁判の告発劇としての苦渋や、映画のアメリカで生きる人々の造形はなくなってしまった。例えば、主人公を支える古くからの先輩弁護士モーとの交流、証人として金で買うトンプソン博士が黒人であること、などは落ちてしまっている。主人公の裁判に立ち向かう動機も、被害者への同情と正義感だけになっていて、解りやすいがそれだけ薄くなってしまった。
    原作の終わりは、皮肉で秀逸な終幕になっているのだが、それは映画でもこの芝居でも採用されていない。
    医療や裁判を巡る功罪はいまも大きな問題になっていて、時宜を得たものではあるが、裁判劇の面白さを越えて訴えるものにはならなかった。

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    2018/12/03 15:17

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