十一月新派特別公演 犬神家の一族 公演情報 松竹「十一月新派特別公演 犬神家の一族」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    久しぶりの劇団新派・新作一本建てで演舞場での公演である。かつては、ここの新派の舞台は、劇場との相性が良く、新派的花街・下町情緒があったのだが、今は無理に大店に入った場違いの店子みたいだ。それだけ、劇団が今のご時世に合わせる演目を発見できていないと言う事だろう。
    暦をくれば新派の新作のヒットは「ハイカラさんが通る」が最後ではなかったか。今回の「犬神家の一族」は、ハイカラさんの本をまとめた齋藤雅文の脚本・演出。すっかり薄くなってしまった俳優陣にはベテランB作とタレント浜中がお手伝いに入る。で、映画で名高くなった横溝ミステリを、という企画だが、これが果たして50年前のヒット・乱歩「黒蜥蜴」みたいにうまくいくだろうか。
    原作は、ミステリのジャンルとしては本格ミステリ。犯人を捜す面白さで引っ張っていくわけだから、当然、人間関係も複雑、被疑者も数多く、キャラの立った登場人物も多い。湖に面した山間の村で、三人の妾にそれぞれの男の孫がいるバイセクシュアルの大富豪の遺産相続で事件が起きる。その孫たちが家宝・家伝の「斧、琴、菊」にちなんで次々に殺される連続猟奇殺人の謎を巡って、ざっと数えて15人くらいの人物が、それぞれの思惑で動く。探偵役は金田一耕介。
    時代は戦争直後。重要な時代背景の「復員」なんて言ったって今はなんのことだかわからないだろう。原作は本格ミステリとして評価が高く、人間関係、見立て殺人、犯人さがし、それぞれの動機背景など、ストーリーの展開に従ってよく考えられているが、現実的なリアリティはない。それを救っているのが、仮面の男とか、池から両足を逆立ちで突き出させる殺人方法など、ふんだんに盛り込まれた猟奇的なビジュアルな面白さである。
    ところがそういう面白さは、映画では使えるが、舞台ではネックになる。舞台でできそうなのは歌舞伎の「菊畑」を模した菊人形殺人位で、脚本の齋藤雅文はさぞ苦労したと思うが、舞台脚本はそれらの原作の複雑な要素をほとんど取り込んで、その上、舞台としてわかりやすいように工夫している。原作脚色のうまさは高く評価していい。一部、原作を読んでないとわからないだろうと思う人物の説明不足もなくはないが、これだけ原作を生かせれば上々である。ことに、本格ミステリのドラマ化で本ではクライマックスなのに、舞台では退屈になってしまう最後の謎解きを、一幕の幕切れから二幕にばらして、謎解きを、それどぞれの役者の場をとれるシーンにしたのもお手柄である。
    しかし、それで舞台全体が面白かったかというと、残念ながら、そうはいかなかった。
    細かく配慮されているのはいいのだが、そこを乗り切っていく作品の情念が舞台化されていない。作品そのものはおどろおどろしいのに情念が足りないのは本格ミステリだからやむを得ないのだが、原作を立てたばっかりに、今の観客に通じる、舞台の芯になる情念が足りなくくなった。別の言い方をすると、猟奇殺人にも、金田一耕介にも、見ていて心躍らないのだ。芯になる八重子も久里子をいい歳になってしまったし、いまさら芸を変えるわけにもいかないだろうから昔通りの新派の芝居だ。懐かしいとも言えるが、そこで新派になればなるほど、浮いてしまう。
    折角の演舞場の新派だが、そういうことが舞台全体を半端なものにしてしまった。

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    2018/11/20 23:08

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