満足度★★★★
「サッカーのヒーローが戦争に行って、下半身不随になり、離れて行った恋人に執着してしまう」という救いのないお話。
開幕すると舞台はアパートの一室で下手から上手に向かって緩い勾配の上り坂になっている。観客には違和感による期待を持たせ、役者には緊張感を強いるための演出なのだろう。と前半終了時点では思っていた。しかし後半になって車いすに乗った主人公ハリーが何度も下手と上手を往復するに及んで、彼の苦悩を際立たせるための仕掛けだったのだと気がついた。
サッカーの試合を舞台で行うことは不可能なのでハリーの栄光を描くことができない。その代わりに共に戦地に赴く友人テディに大暴れさせている。そして彼は盲目になり静かな男として帰ってくる。それはハリーと並行した栄光と挫折的な話になっている。もっともこちらは救われているのだが。
戦場の場面では直接の戦闘はなく、等身大だが3等身にデフォルメされた人形を俳優が前に抱えての演技となり、こういう作品だったのかとあっけにとられる。単純に観客に喜んでもらおうとしたのか、神についてのやりとりが固くならないようにしたのか、そのあたりのセリフがすべて私の頭を素通りしてしまったので何とも言えない。この舞台ではオープニングでも状況が分からずセリフがまったく理解できなかった。私の脳の情報処理能力が急低下しているのも確かなのだが、そうさせる作者の意地悪な魔術があるような気もする。
斜めの舞台や人形劇風の演出もそうだが繰り返される無意味な(?)セリフなど、いろいろと演劇的な仕掛けの多い舞台だった。私の能力では消化不良だったが目新しい工夫があったので満足度は星4つである。