満足度★★★
東京オリンピックを見たのは中学生のときだった。白黒テレビの前に家族揃って見ていたのだろう。今走り出したように元気なヒートリーがどんどん近づいて来るのを見て悲鳴を上げていた気がする。
私が持っている円谷のイメージは朴訥な田舎のおじさんなのだが舞台上の円谷は元気な今風の若者である。君原も何か違うなとは思うものの私の記憶も消えかかっている。もっとも東京オリンピックの時点では円谷24歳、君原23歳であったので現代の若者に置き換えればこんなものなのかもしれない。円谷のゆったりとした走り、君原の苦しそうに頭を傾げる走りを真似る様子はまったくなかったし、人物像も似せる気はないのだろう。しかし苦悩という言葉とは縁の薄い人々にしか見えなかったのがちょっと残念ではあった。
ストーリーは時系列に沿って淡々と進んで行く。東京オリンピックのときの君原への期待は大きかっただけに彼の円谷への嫉妬羨望も激しいものがあっただろう。そこだけで一編の栄光と挫折の物語なのであるがあっさりと流されてしまった。円谷の苦悩も表面的なことを並べているだけでどこかよそよそしい。
元になった話があまりに劇的であるおかげでこの芝居も十分に感動的である。しかし演劇としてはそれ以上の掘り下げが欲しいと思った。
アフタートークに登場した青山学院の原晋監督は表情、身のこなし、トーク力、どれをとってもベテラン俳優のそれであった。マラソンに限らず昔の日本人選手は本当にプレッシャーに弱かった。しかし今では心臓に毛が生えたような選手も珍しくない。それにはこういう新しいタイプの指導者の影響も大きいのだろう。