遺産 公演情報 劇団チョコレートケーキ「遺産」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    鑑賞日2018/11/09 (金) 14:00

    独立した作品ながら、9月に上演した「ドキュメンタリー」とゆるやかに繋がる内容。
    普通の人間が“組織”や“命令”を理由に凄惨な実験を繰り返した731部隊。
    あの現場を嫌悪しつつも、研究者として至福の時だったと回顧する老医師の告白が
    淡々としているだけに、彼の背負ったものの重みを感じさせる。
    選び抜かれた台詞が素晴らしい。
    本編終了後に浅井さんのひとり芝居があり、狂気とはまた別の顔を見せてくれた。

    ネタバレBOX

    1990年、死の床にある一人の老医師とそこに現れる過去の亡霊たち。
    旧満州ハルビン市郊外のピンファンに、陸軍の細菌兵器開発を担う巨大施設があった。
    731部隊と呼ばれた集団を率いたのは石井四郎。
    彼の強力な推進力のもと、中国人を“マルタ”と呼んで実験に使った。
    まさに唾棄すべき行為であったが、同時に研究者にとっては至福の時でもあった。
    老医師の死後、貸金庫から彼が遺した一つの資料が発見される。
    その“遺産”を託された青年医師のもとに
    かつて老医師とともに731部隊にいた男が現れる・・・。

    老医師が告白するように、あの数年間は“耐えがたくも至福の時”であったという
    まさにそれこそが最も恐ろしい事だ。
    そして731部隊の幹部全員が、細菌兵器の研究成果と引き換えに
    戦犯訴追を逃れ、米軍の要望に応える形で血液銀行を創業、
    幹部の多くは731部隊出身者であった。
    高々と理想を掲げて多くの人々の人生を狂わせた連中の、この要領の良さ!
    この血液バンクは、やがて薬害エイズを引き起こし
    再び研究優先、利益優先、研究者の天国は繰り返されることになる。

    岡本篤さん演じる老医師は、終始淡々と自己の半生を振り返る。
    己の利己主義に絶望し大学の研究職に未練なく別れを告げる潔さが、彼の覚悟を物語る。
    その誠実さから、その後の人生をどこか諦めている風が良く似合ってはまり役。
    戦後も731部隊での研究を巧みに加工して論文を発表しようとする
    同僚(渡邊りょう)との対比が鮮やかで、作品の救いである彼の良心が際立つ。

    浅井伸治さん演じる天野軍医少将は、石井軍医中将を信奉して迷いが無い。
    組織と教育・命令の根深さや日本特有の責任の所在を曖昧にしたがる性を考えさせる。
    端正な口跡が本当に魅力的でいつも惹きつけられる。

    無駄のない台詞で緊張感を保ちながら一気に魅せる脚本はさすがで
    時空を行き来する演出も違和感なくついていける。
    ラスト、片言の日本語を話す“女マルタ”が踊るところだけ、
    いたずらにセンチメンタルを絵にした印象で、ちょっと違和感を覚えた。

    部隊が全て引き上げた後、証拠隠滅のために300人のマルタを処分し
    延々と遺体を焼き続ける傭人役の佐瀬弘幸さんが味わい深い。
    その下で手伝いをする少年隊員役足立英さんの瑞々しさが救い。

    こういう題材に果敢に取り組む姿勢がまず素晴らしい。
    私のように「ボーっと生きてる」者でも考えさせられる、
    演劇にはこういう力があるのだといつも改めて思う。
    だから劇チョコが見せてくれるものを追いかけたくなる。





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    2018/11/10 03:28

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