満足度★★★★
昔懐かしい産業衰退劇である。昭和の時代には、左翼系新劇から、新派に至るまで、よく見た。絶滅危惧種かと思ってていたが、いや、日本社会の原点でもあるのか、なかなか滅びない。今回は極め付き!とも言うべき天然の藍染。東京の染屋一家のホームドラマが噛ませてある。呆れるほど、昔のママの筋立てで、よくこれで企画が通った、と見ていると、やはり、それは仮の姿で、作る方もしぶとく今の芝居にしている。
いまらしさのいいところは、昔は敵味方が明確にあって、金持ちとか行政とかは決まって敵役。善玉には可憐な不幸な娘がいて、というのが王道なのだが、この芝居はそんな野暮はしない。それぞれの登場人物の心の中に敵も味方もいる。これは少し配役上類型的だがかなりうまくいっている。もう一つ言えば、台詞。新派芝居のこってり情緒が似あいそうなセリフなのだが、全員イマ風、平板ぶっきら棒。三人兄弟の男の子が実の子でない、とか、月が出ていて、最後は月光の曲というべたさには閉口するが、そのべたさを救ったのはこの台詞の工夫で、老夫婦(野村昇史、高林由紀子)、親たち(金田明夫、上野直美)を演じたベテランがさすがに意図を呑みこんで旨い。だが、一方では、マイクが常識になった昨今では、生台詞は、かなり聞き取りにくい。台詞足が速いのはいいのだが、言葉に力がない。こういうところは少し工夫が欲しい。例えば、出場が少ないおばの高橋理恵子。舞台の奥での台詞なのだからもっと張らないと。そういう技術はある劇団円であろう。
今の芝居らしくないべたべたの話が、今もあるかもという現代劇になった。関係者も多そうな満員の客席は満足している。だが、多くのいい役者もいる劇団ならもっとやるものがあるんじゃないかなぁ。