満足度★★★★
古川健脚本の文学座公演が観られず残念がっていたら、ほぼ直前に「楽園」での公演を知り、「チョコレートだから見応えあるはず」と自分に言い聞かせて観劇した。不思議なもので、芝居の出来は宣伝への力の入れ具合と意外に対応している(「はずだ」と言い聞かせたのはそういう訳)。こちらの勝手ではあるが、チョコレートケーキには期待度が高い。だからそのレベルに達していない事の「欠落」に気が向かう。
史実を題材として秀作を生み出してきた劇団だが、史実・事実を扱う難しさを今回考えさせられた。端的な感想は、当時このスキャンダルを知った時の感覚というか、驚愕に見合う深さに芝居が届いていないというものだ。
問題の根の深さを「理解する」記者(ルポライター?)という設定に無理があったのではないか。まず彼の職業の現状がはっきり見えていない。安定を保証された大手メディア記者ならそれを投げ打ってでもこの問題をやろうとしている、のか、フリーライターがこれをスクープに名を売りたい願望があるのか(もちろん正義感は誰にもあるとしてだ)。演じた彼は恐らくは後者に属すると思うが、どちらにしても、彼の生活に繋がる部分がどうなっているのか、様子からは窺い得ず、もどかしかった。
「問題」を背負い切れる人間など滅多にいない。何がしか欠点、弱点を持つ、その人間が、ある真実を前にする、その実態は彼の許容できる範囲を超えて、存在している・・そのようにしか人間ドラマの中に大きな問題は描き得ないのではないか、という事をこの芝居で考えさせられたのだった。
最後まで記者は弱みを見せなかった事で、逆説的だが、どこか「語り切れなかった」感じが残ってしまったのだと思う。