満足度★★★★
大きく高い白い本棚が客席に向かって開いている。本棚には白い大きな本が並んでいるが、それが次々と炎上する。ここはマッピングだ。本を持っているだけで犯罪で、それを焼く昇火士と言う公務員もいる情報管理社会がこの装置でよくわかる。昇火士と言うのは、原作翻訳者の造語だが、言葉にすると消火士と紛らわしい。つまりは現在の消防士とは別の役割の公務員がいる未来のディストピアドラマである。
ミステリやSFの読者には古典のレイ・ブラッドベリの原作はすでに何度も映画にはなっているが、舞台にするには未来社会と火を扱う場面をうまく見せられるかどうかがネックになっていて、あまり記憶にない。今回は、この装置が効果的で、終始この本棚に囲まれた舞台で進行する昇火士モンターグ(吉沢悠)の物語に説得力がある。
原作はナチスの焚書に近く、アメリカの赤狩り1950年代に書かれていているから、当然、古めかしいのだが、最近の中国の言論規制や、そこまで行かなくても身近なところで起きている「忖度」や他人への無関心を見ると他人ごとではない生々しさがある。その原作第一部の部分は舞台でもよく表現されている。
昇火士モンターグは、隣人の娘クラリスや妻ミルドレッド(ともに美波)や、上司(吹越満)との日常の中で、このホンのない統制社会に疑問を持ち抜け出そうとする。原作第二部第三部の脱出のアクションドラマ的冒険物語で、原作では本(思想の持ち方)に関する多くの引用や警句がちりばめられている上に、機械猟犬のような小道具、戦争が始まると言う大道具も出てきて舞台では難しいところだ。
小劇場なら一言の説明でやむを得ないと納得するが、大劇場ではどうか。