満足度★★★★
20年も前に読んだシェイクスピア4大悲劇の殆ど忘れた筋書を近年『ハムレット』を始め『マクベス』、簡略版のような演出で『リア王』と改めて古典の価値を、もとい、ドラマの面白さを発見する幸せに与っているが、『オセロー』は未見であった。だから、というのでは全然ないが、空き時間に嵌ったのでこれ幸いと観劇した。
領地王(大名みたいなものか)を任ぜられるだけの武勲を上げた武将オセローは、美しいデズデモーナの心を捕えるが、彼の唯一の弱点(黒人である事、その事から派生する条件)を部下イアーゴー(虚無に病んだ策略家)につかれ、妻を殺すという悲劇的結末を迎える話。彼が黒人でなければ起こりえないと思われる話であり、その意味で「悲劇」の中でも人間の陰湿さが最も表に現れた話だ。
演出は蜷川幸雄の演出助手出身の井上尊晶。蜷川カンパニーの演助出身の演出家の名前を近頃よく目にする。藤田俊太郎、大河内直子、石丸さち子・・。
新橋演舞場での「オセロー」は歌舞伎俳優が主役でヒロインは宝塚出身。舞台はダイナミックで蜷川演出が使いそうな技巧もみられたが、戯曲を判りやすくメリハリを利かせて観客に見せてくれた、という印象で、古典の物語世界に収まっている。現代世界へ首を出す瞬間が「今やる」舞台なら欲しくなるという事はあるが、シェイクスピアの『オセロー』の筋書はもう忘れる事がないだろう。細部もクリアに粒立ち、優れた戯曲紹介である。(揶揄ではないつもり。)