ドキュメンタリー 公演情報 劇団チョコレートケーキ「ドキュメンタリー」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    劇団員3人による生チョコみたいに濃密な会話劇。
    キャラの設定がドンピシャで、特に岡本篤さんの老医師がはまり役。
    「ようやくこの時が来たか」という“開き直り”と“待ってた感”がないまぜになったような
    淡々とした覚悟が素晴らしい。
    浅井伸治さんの正義感に突き動かされる実直なプロパーも良かった。
    ラスト、もう少しドラマチックになるかと思ったが、これもドキュメンタリーということか。


    ネタバレBOX

    舞台はフリーライター(西尾友樹)が先輩ライターから借りた仕事部屋。
    ある日、ここをひとりの男(浅井伸治)が訪れる。
    グリーン製薬のプロパー(営業)で、「内部告発をしたい」というその男から
    話を聴くためだった。

    グリーン製薬は、血友病患者が使用する血液製剤を製造するトップメーカー。
    他国が安全な加熱製剤に切り替えた後も、日本は非加熱製剤を使い続けた。
    グリーン製薬の在庫を売りさばくため、エイズ感染の可能性を知りながら・・・。
    プロパーの男は、この事実に耐えられず、告発したいと言う。
    そしてもうひとり会社の裏側を知る男、グリーン製薬を辞めて小児科医を開業する
    老医師(岡本篤)にコンタクトを取り、彼からも話を聴くことになる。
    彼の語る会社の体質は、あの731部隊の恐るべき実態に繋がるのだった・・・。

    正義感溢れるフリーライターが話を聞き出す形で進むが
    若干前のめりなキャラとはいえ、彼が一人で動き回るのがちょっと不自然に映った。
    が、それがあまり気にならなくなるほど、明らかになっていく事実に衝撃を受ける。

    製薬会社のルーツが、あの731部隊にあるということ、
    かつて人を“マルタ”として扱ったように、在庫処分のため危険な血液製剤を売り続ける。
    根底にある実験優先、科学優先、利益優先の精神は全く変わっていなかった。

    研究者にとって、常軌を逸したあまりに自由な現場は、彼らに黒い狂喜を覚えさせ
    その記憶は製薬会社にそのまま持ち込まれたのだ。

    ところがラスト、あれほど内部告発に燃えていたプロパーから、
    「やはりできない」という電話が入る。
    暗澹とするフリーライター。
    「どうしますか、二人でやりますか?」と問う老医師・・・。

    難しい歴史的事実に果敢に切り込むチョコレートケーキだが、今度はこれか、という驚き。
    そしてそれをエンタメに仕上げるには「明快な理由が必要」と言う古川氏の言葉に納得。
    史実としては「謎」だが、演劇で相変わらず「謎」と言われては社会の教科書と同じだ。
    豊かな創造力による「明快な理由」があって初めて観る者は共感する。
    チョコレートケーキの作品を観た時の「そうだったのか!」という深い共感は
    これ故だったか、と思った。
    たとえそれがフィクションであっても、である。

    したたかな反面、人生の最後に自らを総括したいという老医師のたたずまいが素晴らしい。
    単純な批判だけでは済まない人間の業を感じさせる。
    実直なプロパーの緊張と憤りが伝わるような視線、表情がリアルで一緒に肩に力が入った。
    彼の心変わりの変遷がどうしても知りたいと思わせる。
    牽引役となるフリーライターの台詞、冒頭の録音シーンから事の重大さが伝わる。
    迷いなく突き進んできた彼の、ラストで茫然とするシーン、このギャップが次を期待させる。

    演劇の力を見せつけるテーマの選択、これからもずっと見続けたい。
    それを具現化する役者陣の素晴らしい台詞に酔いながら。



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    2018/09/28 22:48

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