満足度★★★★
いくら90分足らずの作品と言っても、ほとんど出ずっぱりの中身が詰まった三人芝居を連日3回やるのは、大変だろう。それを破綻もなくやってのけるだけの実力がこの劇団にあると言う事だ。半端な5時の回を見たが満席だった。
芝居は「歴史暗部もの」の、サスペンスもあって一気呵成に進む。素材を追い込んでいく作劇法もよく出来ている。しかし、もう何度も語られたこの素材を通して、新たになにが語られたかと言うと、そこは薄い。構成もうまいし、俳優たちも柄にはまっていて、だれることはなく、この戦時中の植民地で行われた日本軍の残虐行為が、現在の製薬会社にも受け継がれていることが語られる。科学の名で行われた残虐行為に慣れてしまう人間の弱さ、生活のためには医学の倫理などはたやすく捨てられること、官民とわず日本人に共通する自己を律することの弱さ、それの反面として、権威や組織への盲目的な従属、が語られるが、いずれもどこかで聞いたような結論に落ちていく。パンフによれば、事件をすっきり解いてみせるエンタテイメントだと言うが、この程度でホントにそのつもりなのだろうか? この作者なら、こんなことで終わったりはしないと思う。これではパラドックス定数(今年同じ素材(731)を再演した。もちろん劇の設定も中身も違うが、日本ではいつまでも731の思想は変わらない、と言っているところは同じだ)と、どっちもどっちと言うレベルではないか。
素材の追求ではなく、タイトルの「ドキュメンタリー」論だとすると、見方は変わるが、この程度でこの事件を書くのをあきらめるようなドキュメンタリストではドラマにならない。
ドキュメンタリーがどう取材され切り張りされ、「これが真実だ!」と公表されるようになっていくか、というのはかなり面白い素材で、もっと手垢のついていない素材で、見せて貰いたいと思う。