満足度★★★★
ハツビロコウ atシアターシャイン。同じ小屋を使った前公演での窮屈な印象は微塵もなく、時計の秒針音もじっくり聞かせる鐘下ワールドと再び相見えた。どの役もその人物像の形象に逐一首肯させられたが中でも秀逸は安重根役。口数の少ないこの歴史上の人物を、登場の瞬間から存在せしめていた(伊藤を暗殺した国賊は彼の地での英雄である、との事実以外私は承知せず)。実質日本の支配下にあったらしい中国旅順の刑務所に安は収監されているが、唯一その「人物」に触れる通訳(日本人)もハマリ役。戯曲上彼は安の尊厳を認め代弁する役回りであるが、作者が確保したリアリティでは、彼は安を畏敬しながらも弁護しすぎず、刑務所側(これも立場様々ではある)と言論的に拮抗する事となっている。
落ち着き払った安の佇まいと、視野狭窄の日本人役人(即ち軍人)との対照、斜に構えた医師が通訳者の先輩で「異端を解する」目を持つ人物も、両者の中間にあって「言論」の単純化を免れさせている。そうした事がこの芝居をリアルな世界に仕上げる事に成功し、複雑だがどこかシンプルな印象を残す。逸品と言える。
ドラマそのものについては、また。