満足度★★★★
鑑賞日2018/08/22 (水) 19:00
『川辺市子のために』
舞台は、白骨死体の由来と殺人ないし死体遺棄の犯人を突き止めようとする刑事後藤が、関係者を集めて話を聞くという展開。
集められたのは、幼馴染、学生時代の親友、ストーカーになった元同級生、学生時代の元カレ、パテェシエを目指す友人、結婚を誓った現恋人など。
彼らの証言から、川辺市子の過去が再現され、一方で市子の母親の過去などの描写が挟まれます。
刑事は、失踪した市子を追っています。しかし、同時にこれは月子を追うことでもあります。なぜなら、市子この世に存在しないはずですから。
この作品、無戸籍児(300日問題)を題材にしたミステリーです。
松本清張の「砂の器」のように、そこに示されている問題が、犯行動機や川辺親子の行動要因に深く関わっています。しかし、この作品の特徴は無戸籍であることが招いた状況が、証言者たちの認識や証言に大きなバイアスをかけ、市子像をかなり多面化あるいは虚像化しているというということにあります。
そうした点でこの物語は面白く、むしろ無戸籍や300日問題がどうかといったテーマ性よりも、設定として犯行動機にうまく生きている点の方に比重が高いように思われます。