満足度★★★★
フランスのブールヴァール劇である。このジャンルの芝居は昔からよく紹介されてきて、文学座もよくやっていたからNLTのお家芸である。ほかにも、エコーとか薔薇座とか。しかし、こういう芝居が「新劇系」で上演されてきたのは、ある意味では不幸だったのではないか。リアリズムを基調とする新劇より、見世物芝居を基調とする興業がなじんだのではないだろうか。噂でしか知らない昔の浅草六区調。見たことのあるもので言えば、東宝喜劇とか。エノケン・ロッパに越路吹雪という顔合わせだ。
「しあわせの雨傘」は軸の三人は、テレビで顔の知れた役者。どうやら、地方巡演を売ることを目的に座組みがされたようで、それはそれでいいのだが、地方の演劇鑑賞会にこの舞台を海外名作芝居として売ってしまうのは見当違いで、見せられる方も不幸だと思う。演出の鵜山仁は旨い演出家だが、まとめ易さに流れて新劇ベースだ。しかし、もともと、この芝居は現代風俗を取り入れているものの、風俗以上に出ているところもない。これを労使対立の階級ドラマ、と解釈したり、女性自立のドラマとしようとすると苦しいだけの笑劇だ。
夫婦それぞれに浮気がばれていくところなど、解りきっているところを舞台の弾み、タイミング、役者のキャラクター(柄)で笑わせていくところが、役者と演出の腕だろう。二幕・電話がかかってくるところ等、まったくどうでもいいところだが、タイミングの芝居が面白ければ、もっとどっと沸くところだ。新劇が嫌う「臭く」やってこそ楽しめる芝居なのだ。そういうことに慣れていないテレビ出の俳優がそろって、鵜山演出、と言うところが、折角、博品館と言うこういう芝居をやるにはうってつけの小屋で、なんと、夜は一回だけ(幸いその回は入っていたが)しかできない結果になったと思う。
演舞場や明治座だけでなく、こういう小芝居を小洒落れた小劇場で見るのは楽しいし、役者もこういう芝居ができるようにならないと一人前とは言えないだろう。今回は、少し厳しく言えば、周囲を忖度して、妥協の産物になっているのが残念だった。