満足度★★★★
ナイロンも25年か!ナンセンスと新しい笑いを軸に、独立独歩の四半世紀である。昭和の後半以降、日本の現代劇は非常に多彩な発展を遂げてきたが、表立って活躍した人々の裏側で、しっかりそれを支え、市民への回路をつなげたのが、ナイロンと新感線だと思う。彼らがいなければ、日本の現代劇は新劇を引きずり、教養主義も、政治性も抜け出せなかっただろう。大したものだ! まずはおめでたい。
記念公演の「睾丸」はこの劇団創立から舞台に立ってきた、みのすけと三宅弘城をフューチュアして、外部からも新旧取り混ぜてゲストを呼んだ舞台だ。今回の素材は、25周年と言う看板に合わせて時代回顧もので、中年に達した学生運動に取り込まれた世代が、現代の世相の中で家族も、男女関係も、社会の中での居場所も、確信が持てるものを失い、古色蒼然の過去の主義と半端な人情の中で繰り広げるコメディである。かつてはよく「ナンセンス!」と他人を批判したものだが、彼らはそのナンセンスの中で浮遊している。それでオトコか!?と言う事でこのタイトルになったと思う。
みのすけと三宅弘城は元学生運動の一環として学生演劇をやった作者と演出家で、作者(三宅)はその主演女優(坂井真紀)と結婚して娘(根本宗子)もいるが、離婚寸前。そこへたまたまパチンコ屋で出会った演出家(みのすけ)が、家が全焼したと転がり込んでくる。ケラの芝居で、シチュエーションにこういう現実的な社会関係を持ち込むことは珍しく、また、自らの演劇経験もそこはかとなく反映しているのか、いつものような物語の飛躍は少ない。この二人を軸に、主要登場人物13名、それぞれに、今の社会で生きづらい人たちが集まってきてナンセンスな笑いが展開する。休憩10分を挟んで3時間15分。とにかく面白い。まったく飽きない。こういう生な事件を素材にしていながら、実際に身の覚えの人々もまだ多い中で生モノの難しさも乗り越えて、笑える。そしてちゃんと今の社会批判になっている。だが、ケラはこういう解りやすい物よりも、多くの作品が成し遂げたように、とっぴなシチュエーションを独特の喜劇に落とし込む作劇の力がある。年齢的にもうかつてのように年5作の新作は無理なのだから次回ははまたケラらしい世界を見せてほしい。
ナイロンの俳優たちは、出てきただけで存在を納得させる力がある。面白い顔ぶれの資質が違う客演も、赤堀雅秋はうまくハマったが、安井順平は七転八倒、根本宗子は歯が立たず、と言ったところだろうがこの経験はきっと役に立つ。