満足度★★★★
この劇場の「お勢登場」も前売り即日完売で苦労したが、こちら「お蘭」はもっと足が速く午前完売。劇場は同じなのに、スタフ(作・演出)も俳優も、主催(製作)も変わった。どういう話し合いが行われたのか、知る由もない(知ってもどうと言う事はないが)が、タイトルまでフォローしてしまうとは、ずいぶん大胆なことをやる。幕が開くとセットの二重組まで「お勢」と同じ、出だしも同じお勢登場の場面から始まるので、これはパロディかと思ってしまうほどだ。しかし、お勢が乱歩のファンタジックな世界を軸に現代的な悪女を作ろうとした現代劇なのに比べると、こちらは乱歩の猟奇趣味を素材にしたステージショーの味わいである。いまどき乱歩がそんなに面白いか?と首を傾げるが、お蘭は役者もそろい、北村想も肩の力が抜けていて、75分と言う短さもあって、とにかく飽きないし、面白いのである。劇中でも言うように、乱歩などは今や子供だましの設定のカノン的な繰り返し(これは旨いことを言うと思ったが)で、劇中設定が引用される、人間椅子、鏡地獄、お勢登場、江川蘭子などもろもろの作品に登場する悪女も、種を割れば、どれも同じの「蘭子」の繰り返し、これを小泉今日子が七変化で勤め、歌まで歌い、追う側の明智(堤真一)も、こちらは小説ではあまり登場しない目黒警部(高橋克美)も、まずはカノン的装置のパーツ(明智も空地と名前は買えてある)と決めてしまえば、あとは本と役者の世界である。楽屋オチが何度も登場してシーンにまでなっているのも、ステージとしては面白い趣向で客ウケしている。数年前に乱歩の著作権が切れたよしで、大劇場も小劇場もしきりに乱歩原作を上演するが、これほど乱歩を読み切った作品は少なく、どこかで乱歩的幻想と怪奇の世界を信じようとしている。こちらはまるでその気がないところがよかった。これは確かに現代の乱歩の読み方で「日本文学シアター」にふさわしい。