作家は多くの時間と労力をかけて、綿密な取材とともに氷山のごとく膨大な
資料の丹念な読み込みを行うが、作品としてあらわれてくるのはその一角にすぎない
ということを重々承知した上でいうと、ストーリー展開は予定調和的で
テレビドラマ向きのスタイルになっており、陰影に富んだ演出も手堅くはあるが、
台本と演出との相性はいまいち。
その分、それぞれの俳優の持ち味がうまく引き出されるようなつくりに
なっていて素早い場転への参加も含め出演陣の奮闘ぶりが際立っている
(半海さんの怪演も含めふり幅のある演技、桑原さんのはじけた演技などは
なかなかのもの。下ネタギャグはほとんど半海さんが一手に引き受けているが、
台本が生真面目すぎてゆとりがなく空回り)。
背景の舞台美術の使い方なども秀逸。舞台空間全体に対して実際の演技空間が
比較的狭く空疎感というかスカスカな感じはあるが、これはこれで登場人物たちが
内面に抱える孤独感、疎外感、絶望感などを漂わせ訴えかけている気がしない
でもない。
紀伊国屋ホールは座り芝居などをされると特に前方の平間の客席からは演技が
非常に観づらくなることがあるが、今回、装置の一部にもなっているある程度
高さのある可動性の台の上で主に演技がされていて客席からほとんどの演技が
観やすくなるよう配慮されているのも好印象(ただ、オープニングとエンディング
の特に下手側で、この演技台の高さがかえって邪魔をしているところもあるが)。