満足度★★★
思いもかけぬ妊娠の可能性に動揺する夫婦と、母の末期がんと恋人の存在とを同時に知った兄弟。
舞台上では、生/死(中絶・尊厳死)の境界線を前にした二組の物語が同時進行し、やがて交錯します。
仕事人間で、職場での立場や体裁、出産後の生活に対する不満、不安を述べる妻の主張は、産んでも産まなくても生きづらい社会を反映しているようで、とても頷けるものでした。また、そうした気持ちをもまず理解してほしいという立場もよく分かります。
一方の兄弟のテンポのよいやりとりも、マザコン風の兄の主張が結局は母自身ではなく、自らの日常を守らんがためなのだと、次第にわかっていく過程がユーモラスでもあり、リアルでもありました。
大掛かりなセットも小道具もない、椅子だけのシンプルな空間で、対話を重ねる中から具体的なディテールを持った人間ドラマが立ち上がってくる面白さの一方、後半に前景に出てくる「母」と「未来の子供」(特に後者)の存在の仕方には疑問が残りました。二つの「生」と「死」をめぐるドラマは、その具体的な感触、多様な視点を含むゆえに魅力的だったと思うのですが、それが「進み続ける人生の時間」という大文字の美しさ、尊さのようなものに包みこまれることで、かえって見えなくなってしまった気がします。