満足度★★★★★
桐生市は十年程前に一度通過したのみ(桐生駅始発のわたらせ渓谷鐵道を往復した朧気な記憶)。旅気分で親八会の『マッチ売りの少女』を観に当地へ赴いた。新宿の細いビルの5階だか、階段で上った狭いスペースでかぶりつきで観たのが同会『父と暮らせば』朗読。これは各地をまだ巡演中とか。辻親八の相手役は渋谷はるか。汗水迸る熱演の彼女が今回も中心的役(娘)に座り、さらには桟敷童子・大手忍!(弟)、俳優座・清水直子(妻)、辻(夫)。演出藤井ごうによる本格的な舞台であった。
旧商家の蔵が集合した有鄰館の一角で、客席は40~50程度。観客数は30余名といった所だろうか。
別役実作品のシュールさが、笑い、そして居心地の悪さを通過して、ある哲学的な問いの前に強引に立たせられるミラクルは、辻演じる夫と渋谷演じる娘との「対決」を軸に、この対決が紆余曲折するための妻や弟の介入が絶妙に絡んで仕上がる。弟演じる大手のキャラの豹変、辻との夫唱婦随のコンビを奏でる清水演じる妻、かくも美味なる舞台にこの客数は寂しい限りだが、みれば皆良い顔をしている。この場に立ち会えた幸福を自分も噛み締めた。