満足度★★★★
原作モノを舞台化して成功させるのは容易ではない。ことにこの原作は、新聞小説で新しい側面を開き、ベストセラーにもなり、映画化もされ、それがベストテンにも挙げられている人口に膾炙している評価の高い作品で、観客の方もすでにこの素材に触れている。早い話、私は原作も読み、映画も封切の時に見、改めてDVDを見て劇場に行った。
演劇としては、屋上屋を架すだけの表現をしなければならないわけでハードルは高い。
素材は佐賀県の典型的な地方に生きる人々の荒涼たる孤独をきわめて現代的な風景の中で多角的に描いたもので、発表以来十年を超えても、いまなお新鮮さを失っていない。作品の中の人間たちの配置も物語もよく考えられていて、それが主人公たちの最後の道行きに収斂されていく。小説の世界を映画はほぼストーリーを追って、演出の映像のリアリズムと俳優の好演で、再現して優れた映画になった。
演劇は、場を舞台にせざるを得ないし、俳優の数にも限りがある。公演の時間で完結するように脚本を組まなければならない。条件が悪い中で、テレビ出身の脚本演出が選んだのは、原作の最後の部分にあたる主役男女の幼い頃の心に残った燈台への道行きに絞る、と言う工夫である。さらに、独白を多用して、短い時間で大部の小説の世界を拾う。その結果、二人の男女の演劇的な絡みよりも語りドラマのような舞台になった。この便宜的のようにも見える手法が、意外に登場人物二人の孤独を浮き出させることになった。終盤は手紙の朗読が続くがこれも効果をあげた。演劇としてはこうだ、という独自性は出せたし、劇場と言う狭い空間でうまく素材を生かせたと言える。1時間25分。映画が大作で2時間15分あったわけだから、ずいぶん思い切った舞台化である。