満足度★★★★
鑑賞日2018/03/09 (金)
このリーディングを聴いて、私の頭では絶対に1回では受け止めきれないだろうな・・と思い、2枚チケットを取りました。正解!
一度目は息子の心理を追い、彼に起こる出来事、登場人物たちに起こった出来事、おかれていた状況に衝撃を受け、圧倒され、打ちひしがれました。
二度目は少し冷静に物語を観ました。そして、一人、一人の心に耳を傾けることが出来き、涙があふれて来ました。
たぶん役者さんたちも回を重ねるごとに、この物語への深みを増していっているのだと思います。
複数回行くと、劇場にも重ねた舞台の熱や空気の匂いが残って濃くなっているのを感じます。
物語は生まれた時に母が亡くなり、悲しみのあまりに旅に出てしまった父・・・・父に遭うことの無かった息子は情事の最中に父の死を知らされる。父の遺体を引き取り、母のそばに埋葬したいと考えたが、母の兄弟たちに猛反対を受ける。母の死を死なせたのは父だと言うのだ。体が弱く、医者に止められたのに無理に子供を産ませたと。
息子は父を遠く離れた彼のふるさとに葬ろうと考え、彼の死体を背負い旅に出た。遠い中東の国へ(レバノンと思われます)。
しかし、その地は紛争のため多くの人が死に、もう遺体を埋める場所が無かった。歌う女としかるべき場所を探しに旅に出る息子・・・・荒れ果てたその地で、出会う人々は荒廃し、若者たちは苦しみを抱えていた。心に深い傷を抱いた若者たちと海を目指す息子・・・・彼らがそこで手にするものは・・・・・。
息子ウィルフリード(亀田佳明)の寂しい子ども時代に彼を慰め力づけた空想の騎士(大谷亮介)の存在、次々と起こる非日常な出来事を創作のように感じる彼の感覚の撮影クルーの存在、そして、遺体であるはずの父との会話で、ウィルフリードの心の空虚や混乱を目で見ることができました。
遺品の鞄の中から出てきた出されなかった自分宛の手紙は彼の時間の空白と父の心の空白と重なり、受け取れなかった愛、伝えられなかった愛の深さに苦しくなり、彼が父を背負う意味を見ました。
亀田ウィルフリードの孤独と繊細さ、岡本パパの孤独と不器用な生き方と愛の深さ、生きているうちに会えたら、どんなに良かったか・・・と涙しました。
岡本さんがラスト、若者たちの父親代わりに彼らの苦痛に癒しを与える場面は、本当に深くて暖かな父親の愛情があふれていて、こちらも癒されました。
役者さんは主役二人を除いて、皆さん複数の役を演じました。
それぞれに難しい役でしたが、素晴らしかったです。
中でも大谷亮介さんの騎士の邪気の無い目は、彼の夢の中の存在そのものでした。
佐川和正さんの演じわけはお見事で、その場、その場にインパクトがあり、それでいて、その場に見事になじむ・・・素晴らしい!!!ハキムの傲慢さの中にある哀しさ、彼の話には身の毛がよだちました。サベの笑顔に隠された悲しい過去を語る場面では、涙が止まりませんでした。
大人たちが起こす争いの代償は、未来の大人となる子どもたちが背負わなければ行けない・・・と、痛感する物語でした。
でも、結構ユーモアに富んだ会話があり、会場に笑いもおきます。だからこそ、この物語の重みが伝わるのかも・・とも思いました。
とてもすごい、素晴らしい舞台でした。
ありがとうございました。
作・ワジディ・ムワワド
翻訳・藤井慎太郎
演出・上村聡史
出演・岡村健一 、亀田佳明、大谷亮介、中嶋朋子、小柳友
佐川和正、鈴木勝大、栗田桃子