黒蜥蜴 公演情報 梅田芸術劇場「黒蜥蜴」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    「黒蜥蜴」は最近も三輪明宏版、花組芝居版と人気演目だが、SPACの舞台に心酔した者としては、三島由紀夫脚色「黒蜥蜴」だからこそ、敷居の高い劇場へと足を運んだ由。江戸川乱歩の原作も面白かったが、三島戯曲では追跡劇の躍動感を残しながら人物像の掘り下げが正面からなされていて、人間ドラマの骨格がある。デイヴィッド・ルヴォーの演出も初めての事で一目見ておきたく観劇。
    日生劇場も初である。昨年の初クリエに続き、主婦層占有エリア(偏見?)におずおずと立ち入れば、主婦率は高いものの客層は多様であった。
    先日の「近松」同様、二幕以降のめり込む。喧騒から束の間離れた時間、じっくりと交わされる会話というのは固唾を呑むサスペンスだ。
    さて休憩時にパンフで役者を確認、主役は中谷美紀、そうだった(チラシに写真載ってたじゃん)。二階席からは顔の判別できず、声でも判定できずで。・・この「大」女優の舞台での力量は未知だったが、カーテンコールで一回り大きな拍手を受けるのが当然と思える緩急自在な立ち回り、屈折愛の表現など、遠目に見た評価だが出色、引き込むものがあった。対する明智小五郎(井上芳雄)は、特に声が、役柄に比してかなり若くみえた。
    注目点は中谷の演技と、演出(デヴィッド・ルヴォー)、と普通なコメントでつまらないが仕方ない。ルヴォー初心者、中谷初お目見え、両者ともその芸の浸透力(普遍性)を感じさせた。そして、「黒蜥蜴」はやっぱしいい。

    ネタバレBOX

    ラスト、明智は依頼者である社長に高価な宝石と彼の娘を引き渡した後、今自死を遂げた黒蜥蜴をかき抱きながら、社長の扱う商品=宝石の価値をこき下ろし、世界の全ては色あせて見えると嘆く。「なぜなら、本当に美しい宝石はもう死んでしまったのだから・・。」
    三島の追い求めた「美」が視覚的なそれ、また芸術のそれにとどまらず「生き方」に見出されている事、そしてそれがある種説得力を持ちえている事に、是非の議論はともかく、言いようのない危険な魅力を感じる。
    そう考えると、大きな舞台で実力派とは言え「大型女優」を使い高名な演出家によって、「美」が作られてしまうと、変な言い方だが戯曲との緊張関係は意味論的には減退する。SPACでの「黒蜥蜴」は世間一般には無名の役者によって演じられ、作品の普遍的魅力が示された。SPAC版は硬質な作りで、彼らの生きる場を象徴するような、一面の黒は、忘れがたい。
    ルヴォーの演出には息を飲む場面も幾つもあったが、この演出家が向かっている目的地は何なのだろう・・そこに関心が向く。三島作品は初めてでなく、古典名作を多く演出している事から、「新たな切り口」をもって挑もうとする演出家魂の持ち主のようだ・・と推測し、考察はまたの機会に。

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    2018/01/20 18:25

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