郷愁の丘ロマントピア 公演情報 ホエイ「郷愁の丘ロマントピア」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    財政破綻、高齢化など日本の社会問題の縮図(あるいは未来)と言われている夕張が舞台。
    フライヤーの中央にデーンと書いてある「まちを弔う」が直球ど真ん中であった。

    冒頭の話の中で語られていたように、「夕張」について知っていることはわずか。
    大夕張、三菱炭鉱、そしてつい最近の2014年に湛水されたシューパロ湖(ダム)のことすら知らなかった。
    そのシューパロ湖には集落が沈んでいることも。

    (以下、ネタバレBOXに長々書いてしまいました)

    ネタバレBOX

    ダム湖であるシューパロ湖を臨む展望駐車場には、ダムで沈んだ町にあった記念碑などが移設されていると言う。
    舞台の中央には、その1つが置いてある。
    それがまるで夕張という「まちを弔う」「墓碑」のようだ。

    作・演出の山田百次さんが客入れからほうきで舞台を掃いたりしている。
    時間になり、自己紹介、夕張の紹介、前説・注意事項、そして自分の役名などを紹介しながらゆるりと本編に入る。
    本編に入っても主な登場人物については、山田さんから役名と役者の名前を告げられる。
    バンドのメンバー紹介のように(笑)。

    この形が、この後続くシーンの切り替えにとって、見る者へのスムーズさを与えていたと思う。
    すなわち、20代ぐらいの若者、働き盛りの年齢の頃、そして今の老人という時間と年齢を激しく行き来する際に、観客に違和感をあまり感じさせないのだ。
    さらに、こうした「役者」と「役」の関係の表明が、夕張と「今(役者のいるアゴラ劇場という時空)」の日本をつなげるているようにも感じた。

    少しだけ「未来」へ進んだ「夕張」は、私たちの「未来」でもあるから。

    90歳を超える茂治と、その仲間(というより家族=一山一家)たちはかつて大夕張にあった三菱炭鉱の炭鉱夫だった。
    彼らには、日本の高度成長期のエネルギーを担ったという自負もあるし、その後のエネルギー転換の代償も負ったというツラさも記憶にある。
    それらをすべて含めて、かつての「いい時代」を懐かしみながら閉じていく町と人々が描かれていた。

    80、90という老人を演じているのだが、よぼよぼの老人という演技をしているわけではないのに、あるときは老人に見えてくるし、あるときはきちんと若者にも見えてくる。したがって、きちんとその登場人物たちの時間がつながって見える。

    会話のテンポがいいし、シーンとシーンとのつなげ方、切り替え方が抜群だ。
    変によぼよぼの老人に一気に変わってしまえば、コント的になってしまっただろう。

    ラスト近くで倒れて息をしない茂治を前にする友人たちの、どこか落ち着き諦めているような姿は、すでに救急医療が滞ってしまっている夕張の現実とともに、一所懸命に炭鉱で働いてきた彼らが、国のエネルギー政策の転換とともに放り出されてしまった姿にも重なって見えた。
    死んでいく町をなすすべもなく見続けていたように、友人の死も静かに見続けるしかないのか。

    夕張に暮らすのは老人だけで、訪れる人も懐かしみに来るだけ。島谷の孫娘も出産とともに夕張を出るという。
    こうして、一度ダムに沈んで消えてしまった町は、再び閉じられていく。

    笑いが多く、そして内容の濃い、いい作品だった。
    茂治と紀男のエピソード(ほかの誰にも告げていないだろうエピソード)にはグッときてしまった。

    てっきり昔の地名を付けた橋の名前を挙げていく、舞台の上の後ろ姿で暗転、幕、かと思っていたらそうではなかった。
    「それはどうしてなのだろうか?」

    この作品に、何か足りないとすれば、「未来」の話である。それも「少しだけでもいいから明るい」「未来」の話。
    夕張は、財政破綻後、新市長の下、数々の施策を打っているらしい。
    そんな「何か」につながるようなものは舞台の上では何もないのか、と思っていたが、たぶんそれが橋の名前を挙げていく後に続くラストだったのではないだろうか。

    倒れている茂治はすでに息をしていない。
    救急車もまったく来る気配すらない。
    そこへ、本来取材のために来るはずだった人が、車でやって来るのが遠くに見える。

    これが「夕張の未来」「少しだけ明るい夕張の未来」なのではないか。
    たぶんすでに事切れている茂治に最後にさしのべられた「車」が、すでに閉じられていく町・夕張を生き返らせることができるかもしれない「手」なのかもしれないということなのだ。
    このシーンに込められたメッセージは大きいと感じた。

    それにしても、80、90になっても近くにいる「友人」というのはありがたいものだと思った。
    限界集落と言いながらも、ここにはそれがある(一種のおとぎ話かもしれないのだが)。そしてそれは都会と呼ばれるところにはない、という皮肉。

    茂治を演じた山田百次さんの独特の雰囲気がとてもいい。
    男気があって「兄貴」と慕われるのがよくわかる(自分で書いて配役だけど・笑)。
    ほかの炭鉱夫役の松本さん、川村さん、武谷さんも良かった。
    4人の炭鉱夫たちの息の合い方がいいのだ。

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    2018/01/19 06:04

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