カーテン 公演情報 日本のラジオ「カーテン」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    某国の劇場を武装した集団が占拠した。投獄されているらの指導者を解放せよ。要求が聞き入れられなければ人質を巻き添えに自爆する、と声明を出して。

    物語は、劇場が占拠された数日後から始まり、制圧される直前に終わる。その間に劇場内で交わされた会話から、彼らの目的やそれぞれの出自、思惑が浮かび上がり、そして……。

    ドラマティックなはずの題材を、少人数の会話を中心に淡々と描いた、余白の多い芝居である。観終わった後いつまでもいろいろと考えてしまうのは、そこにこめられていた情報量がとてつもなく多かったからかもしれない。

    90分の時間とホールの空間を満たした濃密さと空虚さが、遠い国の歴史を聞かされたような儚さに似た余韻を残した。

    ネタバレBOX


    会場は三鷹芸術文化センター星のホール。ほんの少し前にも他の作品を観るために訪れた場所だ。

    しかし、開場して通されたのはステージの上に組まれた客席だった。目の前には幕。この幕……というよりカーテンが開いたとき物語が始まる、つまり客席を使って芝居をするのだろうということは、座った時点で予想できた。

    カーテンのこちら側で、劇団の名物でもある(←)独特の味わいのある主宰の前説。そのあと、カーテンの向こうからも改めて前説らしき声が聞こえ始める。Mrs.fictionsの今村さんだ。15mmなどで聞き慣れた前説の口調であらためて諸注意を……いや、そうではない。気がつけばそれは独立武装戦線「海鳴り」の声明であった。

    そして幕が開き、現れた光景の異様さに目を引かれる。客席のあちこちに散らばって座っている人々。それぞれオレンジ色の布のようなあるいは頭巾のようなものをかぶっている。その布を取ると物語に登場し、客席のどこかに座ってまた布をかぶると物語の上から一時退場した形になる。

    布で顔を覆われている間は、劇場内の人質を表しているのだろう。オレンジの布は某テロ集団が人質にかぶらせていたものに似ている。そして、なぜかキャストの15人より多い人数が顔を覆われて座っていた。

    舞台となっているのは架空の某国。本土と島の対立は、単純に都市と地方の対立というだけではなさそうだ。

    対する武装集団の中にも島出身者もいれば本土やあるいは異国からきた者もいて、それぞれの出自によって使う言葉が異なっている。本土の言葉、島の言葉、島の辺境の言葉、日本語、それぞれの片言などがあって、もちろん舞台上ではすべて日本語だけれど、敬語や方言めいた言い回しの使い分けで、区別がつくようになっている。

    言葉に現れる住民性や彼らの経てきた歴史。

    そういう言語の使い分けに気づいたのは舞台が始まってしばらく経ってからだった。最初からその辺りも意識して観たら面白いだろう、というのが2度目を観に行こうと思った最大の理由かもしれない。

    何も起こらない芝居だった、という感想を目にした。そういう意味では、出来事の前後や外側(あるいは内側)の「会話」を綴った物語だと言えるかもしれない。非日常の中の日常的な会話を淡々と描写しながら、事件が起こるまでの過程や人々の辿ってきた道を想起させる。

    日常的、たとえば、少女が手にしていたアイスキャンディー。バナナ味なのかマンゴー味なのかそれともメロンなのか、それぞれが違う意見を言う。ただチョコミントでないことは確かだ。ミントの刺激を「からい」と表現した島の少女。島ではからいものは好まれない。さきほどの言葉に表れた白黒つけない住民性と食べ物の好みと。

    日常的な会話の向こうに見えるもの。

    少女は、巫女の末裔であり、三姉妹の末妹である。彼女は、若い同志のひとりに淡い想いを向ける。別の若者は、彼女に少し惹かれている。獄中にいる英雄は、巫女の次女と夫婦となっている。

    会話の端々から伺える人間関係。ひとつひとつの会話に、登場人物ひとりひとりのこれまでの人生や想いがのぞく。

    長女のおだやかな寛容と、次女の潔癖さ。長女と次女はそれぞれ違うものを見ていたのかもしれない。彼女たちが相手の頭上に手を差し伸べる仕草を人々が自然に受け入れる様子に、島に根付いた信仰が伺える。

    奥行きのある人物描写に15人のキャストの魅力が充分に生きた。

    それぞれあまりにもハマリ役だったので、終演後のロビーで「宛て書きですか?」と主宰で作・演出の屋代さんに尋ねた。そうではない、どちらかというと演出でキャストの持ち味を取り入れている、というふうな(←正確にはどう表現されたか覚えてないのですが)お答えだったように思う。

    武装勢力の全滅、とあらかじめチラシにも書いてあったが、ラストでそれについて言及されるまで実はまったく頭になかった。

    序盤で、若者に向かって、お菓子を食べてきたらいい。遠慮することない。どうせもうすぐみんな死ぬんだから。というワダツの巫女の末裔 ソン。

    終盤で彼女は、うつろな表情で歩き続けていたグループのリーダーが言う「この世は生きるに値しない」という言葉に、ウゴくんも気づいてしまったか、と呟いて歌い出す。

    1度目に観終わった後、この物語に登場していた人物はすべて死んでしまったのかしらと思ったけれど、2度目に観て気づいた。そうじゃない、だってラストシーンで「後から聞いた話によると……」と言ってるじゃないか。生き残った者もいるのだ。でもそれは武装集団の誰かではない。

    甘い匂い。甘い……匂い。まもなく催眠ガスが充満する劇場に漂っていたのは、神に捧げられる供物の甘さか、あるいはアイスキャンデーの匂いか。その直後に「みんな死」んでしまう武装勢力。人質のうち、誰が死んで誰が生き残ったのか。

    観終わったあとも、そんなことをいつまでも思い続けていた。

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    2018/01/02 02:31

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