満足度★★★★
「怪談師」という方々は実際に存在するらしい。集まって怪談を語る催しもあちこちで開催されているようだ。
ここでいう怪談は、『四谷怪談』とか『牡丹灯籠』とかではなく実体験に基づく怪異体験談あるいは実話怪談と呼ぶべきもののようだ。
劇中である人物が「私たくさん怪談持ってますから」と言ったり、『遠野物語』の中の挿話を語った人物が非難されたりするのはそれゆえであろう。
もちろん自らの体験には限らない。「これは友人のAさんが体験した話です」みたいなものであったり、あるいは人が体験した話を蒐集し、整理して語ってりするようだ。ま、考えてみれば先の『遠野物語』を編纂した柳田國男がやってたことだって基本は同じなのかもしれない。
蒐集するだけでなく語って聞かせる訳なので、それぞれパフォーマーとしてのキャラクター付けも抜かりない。それゆえ登場人物も濃い面々の集まりとなっている。
この日の集まりは観客を前にしての語りでなくネット中継。技術を担当するのは主宰の友人である人物。
怪談を語る者たちの立場もそれぞれで、主宰であったり常連であったり初参加であったりゲストであったりする。
キャラの濃い怪談師たちがつかの間の集まる中で見え隠れする人間関係。
加えて、劇中で語られる怪談ももちろん見どころである。
怪談師としてならミロくんのクールそうでいてややウエットな語り口が好き。
怪談アイドルの手馴れた風情には安定感があったし。
憑依型というか、結子のはとにかくインパクトがあったし。
主宰の語った、海で死んだ妻と出会う話は、あ、遠野物語、と想うか思わないかでも印象が変わるだろう。
もうひとつ軸になるのは主宰の友人で、この日のネット配信の技術を担当する高橋だ。
開演前の客席とのやり取り。集まりのはじめに雑談として語られたつぶつぶの話(量子力学?)。その中の関わるということについての話。そしてラストのこちら側からあちら側への越境(?)。
後半はそこにまたさまざまな要素が加わってくる。
怒鳴り込んできた男。聞こえるはずのない階段の音。目玉焼きにかけるもの。
実際に現れた幽霊(?)より、人間の方が(いろんな意味で)怖いよ、という話かもしれない。
いろいろ考えるとより面白くなってくるタイプの作品で、一度しか観られないのが残念だ。
ちなみに、目玉焼きには塩コショーで醤油もソースも雨水もかけない派だ。