満足度★★★★
『四谷怪談』をベースに、現代劇として再構築されたある姉妹と男たちの悲劇。
それは自分の中の『四谷怪談』のイメージとはずいぶん異なっていた。伊右衛門といえば歌舞伎では色悪の代名詞のようなキャラクターだ。だが、この作品で描かれた伊右衛門いや伊左雄は、ただひたすらに石珂を愛していた。彼女とともに生き、そしてともに死ぬことだけを望んでいた。
冒頭で彼女にプロポーズし、承諾の言葉を得た彼自身がそう言ったのではなかったか。
ひとつの愛の成就から始まった物語なのに、なぜだかずっと不幸の予感が漂っていた。原作があるからというだけでない、ああもう、どうしたって悲劇になってしまうんじゃないか、と思わせる不穏な空気が物語を覆っている。
伊左雄をはじめとする登場人物たちの、恋というより執着と呼びたくなるような強過ぎる想いゆえだろうか。
ザワザワと背筋を震わすような悪い予感がしだいに現実のものとなっていくのが、いっそ小気味好いくらいであった。
終盤になって続けざまに悲劇が起きてしまうくだりは、呼吸をするのも忘れそうなくらいの緊迫感であった。
主演のお2人の切実かつ壮絶な愛情が、観終わった後も胸に残った。