満足度★★★★
人気作家に突然襲いかかったある出来事が、彼の人生に重くのしかかる。彼の愛読者が殺人ゲームを実行し多くの人を死なせてしまったという事件と、それに対しての彼のコメントが非難を呼んでしまったこと。
そんな彼が再びペンを手にすることができたのは、ある少女のおかげだった……。
10年後、物語の舞台はスロウハイツと名付けられたアパートに移る。
脚本家 赤羽環が所有することとなった建物をアパートに改築して、アーティストの卵たちに破格の条件で部屋を提供しているのだ。
スロウハイツで暮らす個性的な人々の少し不器用な優しさと、人と人との温かい繋がり。そして彼らの表現への情熱とこだわり。
ここに住む若いアーティストたちがそれぞれ魅力的だが、上下二巻の小説を約2時間の舞台にしたため、小説家 チヨダ・コーキと脚本家 赤羽環の関係を中心に描かれている。
環の人生も平穏なものではなかった。生きていくことは苦労も多いけれど、でも、素敵なことだってたくさんある。
たとえば、神様のように崇拝しているあの人が、人知れず彼女のことを見守っていてくれた。あの人にとっても、彼女は大切な人だった。
長年秘めてきた互いへの思い。
環の妹が語った姉妹のかつての出来事を、コーキの側から繰り返す場面が好きだ。さっき見えていたいくつもの景色が鮮やかに色を変えていく。
新たに塗り重ねられるのは、愛情という名の色合いだ。自分の作品を信じることで、自分を支えてくれた少女への。
互いに相手を幸せにしたいと、ただ純粋に思う。そういう関係が丁寧に描かれていて胸がキュンとなる。
ここで描かれる細やかな優しさはとてもこの劇団らしいという気がした。
スロウハイツの個性的な住人たちが織り成すじんわりと温かい物語。