満足度★★★★
『電車は血で走る』
リビングを走る鉄道模型。ヒゲの駅長さんは亡き娘を偲ぶ母の姿なのだとあとから気づいて、胸に込み上げる感情があった。
そんな、物語の始まり。
少年のような少女は、電車を降りる。懐かしい風景。その駅で降りれば、あの人の住む街。電車は走る、血を乗せて。
初めて観る自分でさえ、舞台の上はどこか懐かしい空気に満たされている。少女は訪れる。懐かしい人たちのもとを。
実家の工務店で働きながら芝居を続けるタケと、幼なじみでやはりその工務店に勤め、ともに芝居を続けるヒロ。馬鹿馬鹿しくも確かに輝いていたあの日々はすでに遠く、それでも彼らはまだ夢の途中なのだ。
劇団新感線みたいな派手な歌舞伎ロック調のいでたちで、『蒲田行進曲』などをパクりつつロック・ファックを散りばめて演じる劇団 宝塚奇人歌劇団。主宰のタケは、工務店社長だった父の死を契機に、劇団を解散しようとするが……。
郷愁と馬鹿馬鹿しさと夢を追い続けるかどうか葛藤する三十路の青春と。
チョビさんの歌声が過去と今をつなぎ、電車役の楽隊が後悔と希望を奏でる。
観終わって何日か経っても、買ってきたリハーサル音源集を聴きつつ、あの場面やこの場面を思い返す。
劇団の代表作と呼ばれているのが納得できる渾身の舞台だった。
『無休電車』
先に観た『電車は血で走る』と同様、彼らの自叙伝的な意味もある物語を、音楽とノスタルジーと夢を追い続ける意志で綴った熱い舞台。
亡き友も去っていった仲間も、現実の困難やしがらみも、すべて抱えたまま、彼らは東京を目指す。
電車は走り続ける。
彼らもまた休むことなく進み続ける。迷ったり怒ったり、泣いたりしながら。
観に行った日は東京公演の千秋楽であった。
エンディングを迎え、鳴り止まない拍手に三たび登場したキャスト陣にスタンディングオベーション。振り向いたら会場中が立ち上がってた。
舞台上のキャストの想いと客席の想いが重なる。いい公演だった、としみじみ思った。